3.魔王は万能ではありません─2
「……ダミアン。文字を書けない魔族は多いのか?」
「そうですね。特に獣人族などは種族間で独自の記述方法を用いますので、書けないと言い表すには語弊があるかもしれません。ですが魔族言語の表記が可能かという点では、高位魔族以外は非常に数が少ないとしかお伝え出来ないのが実状です。」
コンラートの話に少し遠い目になってしまったが、俺は気を取り直してダミアンに問い掛けた。
しかしながら思った通りの返答である。
魔王知識でも魔族内での教育にはあまり触れてないからな。そもそも文字をそんなに必要としない。
「各種族間の言語を解読するには膨大な知識が必要だな。」
大きく溜め息を吐き、俺は片手で頭を押さえる。
簡単に魔族全員に教育を施すとも言えないのだ。
これは金銭的な問題だけではなく、魔族という種族的性質が大きく関係してくる。
大人しく勉強などしないのは目に見えているからな。
隼人との邂逅で落ち込んでいたのだが、それどころではなくなった。
全く、次から次へと色々とおこる。
「魔王様のお手を煩わせる事は御座いませぬ。報告する者に徹底させましょう。」
簡単に言い切るコンラートだが、そんな事をしている間に報告役になる者がいなくなりそうだ。
そう。魔道具の試作試行役が不足した時と同じように──ん?……これだ。
「コンラート。ニコラ・アデルを呼べ。」
「ニコラですか。分かりました。暫く御待ちください。」
俺の言葉に少しだけ怪訝な顔をするも、すぐにニコラを呼ぶべく退室していく。
そしてその間、俺は羊皮紙に必要事項をまとめ始めた。
「魔王様。いかがなされたのですか?」
「あぁ、ちょっとな。ダミアンはリミドラを呼んでくれ。これを読んでもらうから。」
「はい、かしこまりました。」
それから俺は頭の中の構想を羊皮紙に書き記していたのである。そうやって視線を落としたまま、問い掛けてくるダミアンに別の依頼をした。
その退室していくダミアンを見送る事なく、扉の閉められる軽い音が聞こえる。
元々はミカエラの時に──せっかく魔法があるのだから、これを使って何か記録媒体として書き込めたりしないだろうか──と考えたのを思い出したのだ。
文字が書けないのならば、魔力を動力源に音声メモなとを記憶出来る魔道具を作れば良い。
そして恐らく、ニコラならばこの発想を形に出来る。
俺の漠然とした発想ながら書き記すそれは、今まで魔道具に触れてきた経験に基づく能力を過大評価していた。
その結果ニコラが非常に頭を悩ませる事になるのだが、その経緯を後日聞かされるのである。