2.魔王と勇者は相容れません─11
「くそっ。……とにかく、俺はお前と殺り合う気はない。じゃあな。」
言うだけ言って、一方的に話を終わらせた。そして俺は魔封じのフードを脱いで腕に掛け、隼人に背を向ける。
幸いにもここにいるのは隼人と俺とダミアンだけなのだ。他の人族の目もない。よって、早々に離脱が必要である。
ダミアンは今のところ鷲の振りを続けてはくれているが、いつ爆発するか分からない。それ程までに不穏な空気を放っている。
隼人が動く前にと、俺は闇魔力で背に羽根を作り上げた。
魔封じのフードを脱いだのは魔力を放出する為もあるが、一番は闇魔力の羽根で破かないようにである。
「ヒュー、凄いね。それは闇魔力……となると、やはりオーミが魔王な訳だ。ふふふ、面白いね。僕の記憶に引っ掛かる何かもあるけど、君とはまた何処かで必ず会える気がする。」
隼人から軽口が聞こえてくるが、俺はそれに答える事なく上昇を続けた。
勇者としての気配が遠ざかって行くのに、感じる視線から逃れられない。
やってられない。やってられない。やってられない。
人として生きて、不本意ながらもそれが突然終わりを迎える事はままあるだろう。だが訳も分からず世界を違えた場所に召喚され、魔王となった俺の次の生が何の因果か前世の親友と敵対する関係。
もし隼人が俺を思い出したところで、勇者という立場から魔王である俺を放任する事は不可能だ。仮にそうしたところで彼が苦しむのは目に見えている。
そう言う真面目な奴だから、俺が死んだ事を悔いているのだ。
記憶にないと言いつつも、苦し気に顔を歪ませていた隼人。俺を思い出しそうになる度にあんな顔をされて、逆に泣きたくなったとは言えない。
俺が魔王になったから、隼人が勇者として喚ばれてしまったのかもしれないのだ。
『魔王様。』
「……大丈夫だ。」
飛び立つ時に胸に抱き締めたダミアンの背に、正気ならとてもしないであろうが顔を埋めている俺。
泣いてはいない。泣ける立場ではないのだから。
ただ──温もりを求めているのは事実である。
『魔王様。』
「うるさい。黙ってぬいぐるみしてろ。」
何か言いたげなダミアンだったが、俺は顔を柔らかな羽根に埋めて突き放した。
魔王城へは意識せずとも帰れる。
今はただ一つの温もりがあるだけで、何とか心の均衡を保っているような状態だった。
魔王として何をすれば良い?国を保つ為に必要なのは何だ?魔族と人族の仲をどう取り持つ?勇者への対応は?俺は……どうすれば良い?俺は魔王だ。
堂堂巡りになる思考をどうする事も出来ず、自動操縦のように城へただ帰還する。
その間、ダミアンは大人しくただ俺の胸に収まっていてくれた。