2.魔王と勇者は相容れません─10
「それで、そのフードは魔力封じかな?」
問い掛けに答えられないままの俺に、隼人から新たな指摘がされた。
もう、これ以上は無理なのだろう。
俺は一つ息を吐くと、ゆっくりフードを外す。そして伏せていた視線を隼人に真っ直ぐ向けた。
「……へぇ?」
一瞬息を呑んだ隼人だったが、すぐに面白そうな顔になる。
勇者の発する魔力に負けてコンラートの魔道具が壊れた事により、俺の姿は元の黒髪と金色の瞳になっているからだ。
「その姿。金色の虹彩と……黒髪だって?魔族……で、まさかの魔王?さっきまでの戦っていた時と色彩が違う気もするけど……。」
自然と隼人の手が背中の剣に伸ばされている。
まぁ、そうなるよな普通。
俺は大きく溜め息を吐いた。
「何、その反応。黒髪って事は魔王でしょ?えっと……何だっけ。あ、鬼族鴉天狗種とか言わないよね。って事でフードを脱いでよ。何処かに羽根があったりする?それにさぁ。魔力封じのフードを着たままで、勇者であるこの僕に勝てるつもりなのかな。」
「……戦闘必須かよ。」
興味を隠さない隼人。
勇者であるからなのか、俺が魔族側である事が疑われてから剣の柄へ伸ばした手を下ろしはしない。そしてやけに魔族情報を知っている。
俺の呟きが聞こえたのか聞こえなかったのか、彼の瞳には好戦的な色がありありと見えた。
「早くぅ。」
妙に楽し気で、それが俺にとっては酷く癪に障る。
これは俺がヤられる立場──勇者に対しての魔王──だからだろうか。
「なんかムカついてくる。」
「何で?僕は勇者だけど、今はまだ魔王討伐依頼を受けてないよ。それにしても、随分華奢な魔王だね。見た感じは人族と変わらないもん。」
苛立ちを隠す事なく表情に出せば、隼人は不思議そうに首を傾げた。
対して俺はイライラと髪を掻き上げて頭を振る。
「本当に空気を読まないよな。」
「え?……それ言われたの、二人目なんだけど。あ、前に言ったのは誰だっけ。あれ……大切な事なのに思い出せない。」
吐き捨てるように告げた俺の言葉に、隼人は僅かに困惑を見せた。
俺だよ──と声を大にして言いたかったが、俺に対する記憶がないのは勇者として召喚された彼の必然なのだと漠然と分かる。戦うべき相手が知己などとは、誰が記憶に留めておきたいと思うものか。
それでも記憶に留めている俺はヤられる側だからか、誰かの単なる嫌がらせか。
俺だって隼人と戦いたくはないんだっての。