2.魔王と勇者は相容れません─8
内心で焦った俺をよそに、隼人の不穏な空気を察してダミアンが飛び掛かっていった。
「っ?」
隼人が目を見開き、条件反射のように左腕を盾にして逆の手は背中の剣に伸ばされる。
「うおっ?!ちょ、待てって!」
その鋭い爪が隼人の皮膚を傷付ける前に、俺は慌てて羽交い締めの要領で翼を掴んでダミアンを止めた。
『っ。』
「落ち着け、ダミアンっ。今は敵じゃない!」
何か言おうとしたダミアンの言葉を遮るように、俺は暴れる鷲を説得する。
端から見たら奇妙な光景かもしれないが、この時の俺は必死なのだ。
「今は?」
「あ、いや……。だってそうだろ?この先なんて何があるか分からないんだ。絶対だなんて言えないし、お前だってそんな確証のない宣言を聞きたくはないだろ。」
揚げ足を取られた感があるものの、俺は隼人に嘘はつきたくない。
彼は今まで一度も俺に嘘をついた事がないからこそ、俺も彼に誠実でありたいと思うのだ。
「……そう。」
「?……っ、いい加減にしろダミアン!」
急に押し黙った隼人を疑問に思うも、ダミアンに意識を持っていかれている俺はそれ以上考えられなかった。
そして無闇に暴れる鷲に頭にも来ていて、羽根が顔に当たったのがスイッチになって怒鳴り付ける。
うん、大人げないとは思う──が、仕方ない。
たぶん人族の変装をして隼人が目の前にいなかったら、速攻魔法で捩じ伏せてたと思うし。
まぁ、そんなこんなでとりあえずダミアンは自分の世界に旅立った。
いや、詳しくは聞かないでくれ。静かになってくれればそれで良い。羽根を膨らませてうち震えていようが、他に被害はないんだ──あっても主に俺の精神的なものだからな。
「凄いね、オーミ。そのサイズの鷲を手懐けている事にも驚きだけど、戦闘中はまるで言葉が伝わっているかのようなコンビネーションだったよ。」
ダミアンが落ち着いた事で、再び隼人と会話が可能となった。
彼も先程の怒りを静めてくれたようで、笑顔を向けてくれている。
「あ~……まぁ、これとは付き合いがそれなりに長いからな。」
さすがにここで魔族アピールは出来ない為、俺は曖昧に言葉を濁す事しか出来ない。
顔がひきつらないように気を付けながら、嘘を言いたくない俺は自分の中の矛盾に喚きそうになって俯いてしまった。
「あ、そうだオーミ。人族の国に行くなら、僕が案内してあげるよ?君は人族のようだし、何故だか全く他人の気がしないからね。」
「え……?」
笑顔で提案してくれる隼人に、俺は間の抜けた顔を向ける。
何と言う魅力的で破滅的な言葉なのかと思った。
隼人にとって何の気なしに発せられた内容であろうとも、俺の立場は魔王。自称勇者と共に単身で人族の国に行くだなんて、無茶を通り越して無謀である。