2.魔王と勇者は相容れません─7
「ふぅ。なかなか面白かったね、オーミ。ところで、何処かで会った事があったっけ?何だか僕は君の事を知っている気がするんだよね。」
大剣を背の鞘に納めながら、小首を傾げる隼人。
どうやって格納するのかと思って見ていれば、鞘に切れ目があって斜めに納刀するようだ。
そして俺も彼に倣って剣を納める。
「……さあな。面白かったのは認めるが、そう言うのは女に言うもんだろ。」
俺は顔が歪みそうになるのを気合いで抑え、出来る限りあっさりと答える。
色彩が違うから気付かないのではない。彼は本当に『俺』を知らないのだ。
俺がいくらフードを被っているといっても、完全に隠すのは逆に怪しまれるので顔自体は曝け出している。従って知っているのならば、見て分からない筈がない。
「で、隼人はこんなところで何やってるのさ。ここ、魔族の国だろ?」
怒りか悲しみか分からないが震えそうになる声に気合いを入れ、浮かぶ不安を消したくて問い掛ける。
勇者なのだと、彼の口から聞きたくなかった──けれど。
「ん、知ってるよ?僕は勇者だからね。魔物討伐は仕事な訳。魔族の国でも人族の国でも、人族の危機に駆け付けるのは当たり前なのだよ。」
笑顔で答える隼人に嘘や悪意は見えない。
そしてそれは、これでもかという程に俺を打ちのめした。
隼人は俺が知り合いだからと言って助けたのではなく、恐らく『勇者だから魔物に襲われている人族を助けた』というだけなのである。
同時に当たり前だが、『魔王である俺の敵』でもあるという事が判明した瞬間だった。
「勇者、ね。」
口に出しながら内心で愕然とする。
彼は嘘をつかない。俺はそう知っているから。
「あ、今バカにしたのかな?僕は見ての通りここの人間じゃないけど、魔物討伐で喚ばれたのは事実だからね。はっきり言って勇者とか魔物とかどうでも良いけど、憂さ晴らしに命を賭けるのもありかと思ってね。ちょうど向こうでやさぐれてたから。」
少しムッとした表情を見せながらも、それに愁いが混ざる。
「やさぐれてた?」
「うん。僕は大切なものをなくしたんだ。ずっと一緒にいて、これから先もずっと一緒だと思ってたのに。不思議な事に今は思い出せないけど、凄く大切だったんだよ。」
「……忘れてるのに大切だったなんて嘘だろ。」
隼人の言葉に、俺は思わず吐き捨てるような口調になった。
思っていたよりも、俺の事を覚えていない彼にショックだったみたいだな。
「何さ、それ。僕の大切な思い出を汚すような言い方はやめてくれる?」
売り言葉に買い言葉なのか、隼人は笑顔でいながらも目が笑っていない。
しまった、怒らせた──と思っても遅い。