2.魔王と勇者は相容れません─6
「今の俺はオーミだっての。」
『はっ。申し訳ございません、オーミ様。』
「だから、様いらないっての。今だけだぜ?」
『っ。有り難き幸せ。お……オーミ……あぁぁぁぁ、幸せですっ。』
戦闘中である事を忘れたのか、ダミアンは倒したレブザの頭部で留まったまま羽根を膨らませて震えている。
変なスイッチが入ったな、これ。
ここまで来ると俺の声すら聞こえない。放っておくに限るのだ。
俺はその後も剣を振るい、襲い掛かってくるレブザを討伐する。しかしながら数が多い。
「っとぅしいな!」
苛立ちに任せて剣を大きく薙ぐと、その隙をついて左側から別のレブザが飛び掛かってきた。
魔法を使わずに対処するには距離が近すぎる。思わず舌打ちし、左腕を犠牲にするつもりで盾にする。
が、その狼型の魔物の牙が俺に届く事はなかった。
「一人で立ち向かうなんて君、無謀だね。」
俺はその声に見開いた視界の先、いつの間に現れたのか剣を振るう人物へ驚愕を隠せない。
焦げ茶色の髪と瞳をしているが、顔立ちも背格好もこの辺りの人族とは少し異なる──俺の良く知っている種族の特徴を持っていた。
「聞いてる?もしかして僕に見とれちゃったかな。でもダメね。僕、女の子は好きだけど男は恋愛対象じゃないから。」
「なっ、誰が見とれるか!俺だってそうだっ、んな訳あるかっ。」
笑顔で告げられ、思わず噛み付く。
この口調、テンポ。本当に良く知っている。
「ほら、後ろ。」
「っ、分かってるっての!」
ゆったりと指摘される背後には、別のレブザの牙があった。
俺はそれを剣で受け止め、払いながら頭部を真っ二つにする。
「なかなかやるね、君。僕が手伝わなくても、もしかして問題なかったかな?」
「当たり前だっての。ってか、オーミ。『キミ』じゃねぇっ。」
「オーミ?何だろう、聞き覚えのある感じだけど……。うん、分かった。僕は隼人だよ。」
事も無げに大振りの剣を振るう人族の男──隼人は、そう目を細めて笑う。
思わず知っていると言いそうになった。
彼は神島隼人。同郷の、と言えば良いのだろうか。俺がまだただの蒼真だった頃の友達──小2からの親友だったのである。
「あ、オーミ。そっち宜しく。」
「隼人も後ろガラ空きだぞ。」
それから俺達は次から次へと襲い掛かってるレブザを、出会ったばかりとは思えないコンビネーションで殲滅させた。
最後の方にはダミアンも復活し、二人と一羽で魔物討伐だったが。