2.魔王と勇者は相容れません─5
「何だ、まだ怒ってるのか?」
ネイドと別れた俺は、ついでにとばかりにケタジストで携帯食糧等を購入した。
そして今は集落から離れ、北の森を迂回するように東よりの山脈の麓を目指して歩いている。
『いいえ。』
左肩に乗ったままのダミアンはそう言葉少なに答えるだけだ。しかしながら身体中の羽根を膨らませている。
ネイドと話していた時からそうなので、興奮しているというよりは怒っている感じなのだろう。
その証拠に集落から離れてからも必要以上に喋りもしないし、目も合わせないのだから。
「ったく……あ。」
面倒だなと思っていたのだが、そんな俺達の目の前に魔物が現れた。
狼型の魔物レブザで、数は20体と言ったところ。黒っぽいグレーの体に、角なのかトゲなのか不明な針状の物が所々にはえている。
『……去りなさい。』
ダミアンが低い声で警告するも、レブザ達は俺を獲物と認識しているようだった。
知能の低い魔物は本能のみで行動する。魔力を封じている俺は、彼等にとって絶好のエサなのだろう。
「やるか。」
俺は腰に佩いた剣をスラリと抜き放つ。
魔道具で姿を変えている為、下手に魔力を放出すれば術が解けてしまいかねないのだ。しかもアルフォシーナから借りたマントを傷付ける訳にもいかない。
「お前は周囲を見張っておけ。」
『っ?魔王様っ。』
肩を突き出すようにしてダミアンを宙に放った。そしてそのままレブザに突き進む。
慌てたようにダミアンの声が羽ばたきと共に聞こえたが、その時は既に1体のレブザの腹部に剣を突き立てたところだった。
レブザは俺の動きを見て一瞬躊躇したように姿勢を低くしたが、すぐに地を駆け一斉に襲い掛かってくる。牙を突き出しに四方から飛び掛かってくるレブザに対し、俺は左足を軸に回転しながら剣を振るう。
直線的に向かってくるならば、こちらとしては反撃が至極簡単だった。相手から突き刺さって来るのだから。
『魔王様っ。』
前方からのレブザに剣を突き立てた俺の背後に、ダミアンが飛び込んで来る。
どうやら俺の背中に牙を向けて飛び掛かったレブザを、滑空してきたダミアンがそれの顔面に鉤爪で攻撃をしたようだった。
「サンキュ、ダミアン。」
礼を告げつつも、そのダミアンの背後に飛び掛かってくる影を見つけて剣を振るう。
『ありがとうございます、魔王様。』
複数戦は気が抜けないが、今の俺は一人でない事が無性に楽しく感じられた。