2.魔王と勇者は相容れません─3
俺は完全に傷を巻いて隠した後、興味を引かれた問い掛けをする。
「紛れて……暮らす訳じゃないですよね。」
「あぁ。奴等は人族に紛れて、勝手に我々を食糧にしているんだ。魔王が勇者に倒されて間がないってのに、好き勝手していやがるっ。」
敵意を明らかにする彼は、言いながら拳に力を込めた。
確かに人族にとって、魔族は全てが悪なのだろう。まぁ、魔族は善悪では判断しないだけ拘りはないか。
「肉食じゃない魔族もいるのではないですか?」
「そんなものは知らないさ。俺達にとって魔族は恐ろしい相手であり、憎しみを抱く相手なのだから。って言っても、魔族の国に住んでいるのは人族の国に住めないからなんだけどな。」
「……だから魔族の国に人族の集落があるんですか。それも、1つや2つじゃないですよね?」
「あぁ。」
彼等にも深い事情があるようだった。
人族の国に住めないからと言った男はネイドと名乗った。俺はオーミと名乗っておいたが、このような人族の集落で住んでいるヒトは家名がないらしい。
基本的に過去に人族の国から追放された者達であり、難民との事だった。魔族の国では彼等を追い出す事はしない為、身を寄せ合って暮らしているのがこういった少人数の集落だと言う。
放逐理由は様々で、罪人だったり不敬罪だったり。中には高い税金を払えなくて出奔と言うのもあった。
「魔族の国に税金を払ってはいないんですか?」
「……集落で纏めて支払っている。嫌味な事に、人族の国より安いよ。」
魔族が人の皮を被ると言った時と同じか、それ以上に嫌そうな顔で告げるネイド。
彼等は認めたくはないのかもしれないが、魔族は人族を下等と思っているから高額な税を求めないだけである。
「けど、我々は人族だ。」
「ん~……まぁ、そりゃそうでしょうけど。俺からしてみれば虫の良い話ですよね。魔族の国に住んでいるって事は、種族が何であれ魔族の国民ですよね。つまりは外敵から……人族からは守られている。魔族からの被害は多少あれど、多大な被害が出ていなさそうな現状から感化するに、愚痴りたいだけかと。あ、これは俺の一方的な思いで言ってるだけですんで、気分を害したらすみません。」
俺の言葉を聞きながら視線が鋭くなってきたネイドに対し、首を竦めて謝罪した。
それぞれに思惑があるのは当然の事で、感情が絡んでいる場合には更にどちらが正しいなどと一概には言えない。
単に俺は、『案外上手くやってるんじゃん』としか思えなかったのだ。
魔族にしてみれば、これくらいの抗いは小鳥の囀り程度の事だろう。