2.魔王と勇者は相容れません─2
「俺、旅をしてるんです。ここから南方のレバムから来たんですけど、ケタジストから北に行くと人族の国があるって本当ですか?……って、あれ?俺、警戒されてますね。」
ヘラリと笑い、両手を軽く上げてみた。
ちなみにレバムから来たってのは嘘じゃない。ここに来る前にそこへ立ち寄ったのだから。
今の俺、腰には細身の剣を佩いて短剣を挿しているが、明らかに身体つきからして武人とは程遠くある。しかも今は魔力を封じているから、即座に攻撃体勢に持っていくのは骨が折れるな。
それでも人族に無謀に突っ込んだのは、彼等から生の情報を得る為だ。
魔族の国の四方には人族の国があるが、北が一番入りやすい。東は切り立った山脈があり、西は岸壁と海。南は広大な砂漠がある為だ。
その分北には深い森があるが、そこに住む魔獣は程度が低いので、存外良い狩り場となっているらしい。
「人族のなりをしていても、魔族が皮を被ってる事もあるからな。お前さん、本当に人族か?血を見せてみろ。」
「は?」
いきなりの言葉に唖然となるが、それよりも暴れるダミアンを押さえ込む事に気を取られた。
やはりというか、素直に肩乗り鷲ではいてくれない。
「魔族は血を流さないからな。」
だが人族の続けられた言葉に納得してしまう。
確かに魔族は血液を持たず、傷から溢れるのは身体を構成している魔力。しかも黒い霧となって大気に溶け出すように出るのである。
「分かりました。」
俺は鷲になっているダミアンの頭部を撫でて落ち着かせると、腰につけた短剣を腕に当てた。
スッと刃が肌を滑ると、当たり前のように痛みと赤黒い液体が溢れ出てくる。
「おぉ~、済まない。ちゃんと人族だったな。申し訳ないな、こんな確認方法を取って。」
俺の出血を確認した男は、先程と打って変わって笑顔で歩み寄ってきた。
「いや、問題ないですよ。これは他のヒトを守る為なんでしょう?」
首を振りながらも短剣を腰の鞘に挿し、俺は手持ちの布で腕を拭う。そして傷口が見えないようにクルクルと包帯のように巻き付けた。
前回誘拐プラス暴行された時に知ったのだが、俺の中には人族と同じ血液が流れている。ただ非常に濃い闇魔力を含んでいる為、近くで見ると揺らめいて見えるのだ。
マジで初めて見た時は驚いたし。微妙にキモい。
「って言うか、魔族が人の皮を被るってのは何です?」
「知らないのか。自らが食したであろう人族の皮を被る事で、我々の中に紛れようとする魔族がいると聞いた。こんな小さな集落じゃ食事量が足りないんだろうがな。ここらじゃ見た事はないが、人族の国では度々あるらしい。」
農耕の道具を肩から下ろし、苦い顔を見せる人族の男。
出血を見せた事で、俺は既に彼の中では同族と見なされたようだ。