2.魔王と勇者は相容れません─1
『分かっていらっしゃるとは思いますが、再度確認をさせていただきます。』
「あ~、はいはい。」
大真面目に説明という名の説教を延々と続けるダミアン。
俺は適当に相槌を打ちながら、幾つ目になるか分からない木々の間を歩き抜ける。
現在地は魔族の国の最北端に程近い森の中だ。そして俺の肩に乗っている焦げ茶色の翼を持つ鷲──の姿に変化したダミアンである。
『現在、勇者が現れたという情報を元に最北端のケタジストに向かっています。魔王様の容姿はコンラートの魔道具で完全に人族と見分けがつかない程に変装出来ておりますが、魔力に関してはアルフォシーナからのマントで抑えておりますので、決してお外しにならないようにご注意くださいませ。』
「あ~、はいはい。」
もう何度目になるか分からないダミアンの言葉に、俺は同じ調子で相槌を打った。
頭から被ったマントを取ったところで、今の俺は金茶色の髪と淡青色の瞳のカラーを纏っている為、この辺りなら何処にでもいる人族の容姿である。
コンラートはニコラ・アデルを頭脳にしてから次々と魔道具を製作しており、しかも以前と違って失敗事例が1割以下という出来だった。これは偏にニコラの発想力と柔軟性の成果だと、知る者は多い。
「あれか?」
『はい、そのようです魔王様。わたくしの話を聞いていらっしゃいましたか?』
緑が薄れ、視界の先に小規模ながら河川が確認出来た。
そして河川に沿うように木造建築の平屋が十数軒並んでいる。
「聞いてた。で、そろそろ黙れ。」
『……あぁ~っ、素敵なお言葉です。』
鳥類の姿をしていてもやはりダミアンに変わりなかった。俺の肩に留まったまま、ピクピクと全身を震わせている。
まぁ、鳥類は基本的に盛ったところで外見上の変化はないからな。うるさい事に違いはないが。
「黙れ。叩き落とすぞ。」
『はいぃぃっ。』
苛立って放った言葉にも、何故か期待を込めた眼差しを向けられる。
嫌だ。絶対に叩き落としたりはしないぞ。100%喜ぶからな。
「……静かにしておけ。行くぞ。」
俺はそれ以上ダミアンに構わず、彼を肩に乗せたまま集落に向かった。
そこはまさしく集落といった規模でしかなく、平屋の他には畑と家畜小屋のみ。
基本的に自給自足をしているのだろう。老人も子供も、総出で畑や家畜の世話をしていた。
「ここ、ケタジストであってますか?」
住民らしき人物達を発見したもののどう声を掛けて良いか分からず、とりあえず集落の名前を聞いてみる。
すると、訝しげに俺を見ていた中から一人の男が歩み寄ってきた。その手には今まで作業していた農耕の道具──鍬のようなもの──を持っている。
「……お前さん、何処のもんだ。」
こちらの問いに答える事もなく、俺から5メートル程離れて立ち止まり、逆に問い掛けてきた。
アハハ……。分かっていたけど、素敵に警戒されてるじゃん。