1.魔王は人族でした─9
「いや、人族を擁護するつもりは全くないんだけどさ。今の問題は、人族の動向理由と勇者の存在確認なんだと思う。魔族の国にも人族の集落があるんだろ?ちょっと行って聞き込んでくるだけだって。ほら、髪と目と魔力を隠したら俺、人族の子供と変わらないしさ。」
俺は出来るだけ軽く言葉を紡ぎつつも、ダミアンを説得する。
この世界の人族に会ってみたいという好奇心は勿論あるが、それ以上に俺はこの魔族の国の王だ。調査しなくてはならないという義務感が強い。
「魔王様。魔族の国にあるとは言えども、人族には変わりありません。魔族を敵視しているのは勿論の事……。」
「分かってるって。そんなに心配ならお前も来れば良いじゃん。」
「えっ。」
それでも言い募ろうとしたダミアンに、俺は押しの一手。即座に黙り混むダミアンは、すぐにヘラリと表情を崩す。
本当に残念だな、こういうところ。俺はある意味使いやすくはあるけどな。
「その形態以外もとれるんだろ?勿論、人族に馴染みあるって意味でな。」
「それは……はい。」
「見張り役兼護衛兼使い走りで良いじゃん。」
ニッと良い笑顔を向ける俺。
「……最後の方に引っ掛かる言葉があったように思えますが。」
「細かい事を気にすんなって。」
「はい……。畏まりました。四魔将軍と打ち合わせの上、ご報告いたします。それまでは決してお出掛けにならないようにお願い致します。」
「はいはい、分かってるって。宜しく~。」
渋々といった感を隠しはしないダミアンの退室を、笑顔で手を振って見送った。
「アルフォシーナ。」
「何、魔王様。」
呟くように名を呼ぶだけで、諜報担当の彼女は目の前に跪いた姿で現れる。
連結しているからなのか、能力的な過信なのか。彼女は何処にいても呼べば来てくれる──無条件にそんな信頼を向けている自分にも呆れるけどな。
「後でダミアンから説明があるから知れるが、少し出掛ける。」
「あたしは魔王様についていく。」
予想通り、アルフォシーナは俺の言葉に食い気味に告げた。
だからこそ、個別に呼んだんだけどな。
「いや。アルフォシーナはここにいてくれ。恐らく、こっちにも何らかのアクションを起こす筈なんだ。」
「いや。あたしは魔王様を守る。」
「アルフォシーナ。それは分かるんだけど、今は別の事を頼みたくてな。」
真っ直ぐに俺を守ると言ってくれる部下は頼もしい。
けれど、守られてばかりでは変化を起こす事は出来ないのだ。
「何。魔王様からの頼み。」
「アルフォシーナのところの『封じの魔石』、貸してくれないか?」
「魔力封じ?」
意気込んでいたアルフォシーナは、俺の頼みにキョトンと小首を傾げる。
うん。やはり自分よりも小柄な彼女は見ていて可愛いものだな。