1.魔王は人族でした─4
「いくら魔法士達が優秀とはいえ、滅した魔族を復活させる事はないからな。」
歩み寄るダミアンとの間に氷の刃を並べた。
それにより足を止める彼へ、現在の地位が盤石なものではない事を突き付ける。
ちなみにあの時の俺は、死の一歩手前ではあったが、完全に死んではいなかったから召喚──強制だったが──にも応じられたのだ。
「そうですね。長寿な魔族とは言うものの、生命体である事に変わりありません。人族や獣のように心の臓が一つではないにしろ、核が壊れれば肉体を維持出来ない事は同じ。この世からの抹殺も可能なのですからね。」
先程とは違い、ダミアンは綺麗な笑みを浮かべた。
話している間に、ドSスイッチが切れたようである。
そして元々気性の荒い魔族の彼等。安穏たる日々が半永久的に続くものではないと本能で知っていた。
「変化を嫌う魔族が多いもの知っているが、俺は俺のやり方でしか出来ない。そもそもが魔族じゃなかったし、力押しってのも嫌いな性分なんでね。」
視線を真っ直ぐダミアンに向けて話しながら、俺は魔力を複雑に練り込んでいく。
そして周囲に風魔力で気流を作り、小さな氷の針を何千、何万と漂わせていった。
「魔王様が魔王たる御力と記憶を引き継いでいる事は知っています。ですが、同時にその小さな御身体に膨大な魔力を押し込めている事も知っているのですよ。その引き金が何にしろ、暴走しないように見張るのも我々宰相と四魔将軍の役割ですからね。」
「あぁ、魔王知識で知ってる。だからこそ、魔族の中から強者が選ばれるんだもんな。双方のストッパーであればこそ、対等ではないにしろ立場が守られるんだ。魔族だって、ヒトと変わらないよなぁ。」
ダミアンが魔力を込め始めたのを感じ、俺はこれが最後の一太刀だと察する。
「それにしては、我々5人の総力を以てしても敵うかどうかですがね。」
「いや、殺しちゃダメだしな。お前達が不利なのは、初手から決まってる。」
「ふふふ、それもそうですね。」
二人して、込み上げてくる笑いに表情を緩める。
考えても詮のない事ではあるが、これも巡り合わせ故だ。
「さぁ、参りましょうか。」
「おう。いつでも良いぜ?」
ダミアンの魔力が充実し、地下の鍛練場が俺との魔力で震え始める。
それでも俺とダミアンには笑みが浮かんでいた。
互いに力を出し合う事に喜びを感じている事は勿論、信頼度が増している事にも通じていたからだ。
そして二人の魔力がぶつかり合う。
強烈な光と轟音が周囲を支配した。