1.魔王は人族でした─3
俺は首を掴まれたまま軽々と持ち上げられ、苦しさに細めた視界の中でダミアンの瞳がギラリと光るのが見える。
息が限界まで詰まり、同時にあの時のトラウマを思い出して背筋がゾクッとした。
──雷電っ。
恐怖に呑まれそうになる心を叱咤し、魔力を練る。
そして雷魔力で身体に稲妻を纏い、磁力を利用して弾かれるようにダミアンから逃れた。けれどもその勢いを殺せず、俺は鍛練場の壁にぶち当たる。
「がはっ。」
自動防御のように闇魔力が俺を包み込むが、肺の空気が全て吐き出される程の衝撃はあった。
魔力制御が甘かったせいである。
「…良いですね、魔王様。詠唱無しで魔法を発動させる事も、闇魔力を使って壁への衝突の衝撃を防いだ事も。本当に貴方は、いつもわたくしの予想を裏切ってくれます。あぁ…、痺れますね。」
壁に凭れながら立ち上がる俺に、ダミアンは恍惚とした表情のまま歩み寄ってきた。
その両肩からは未だに黒い靄が出ているが、治す気はなさそうである。
「ふん。痺れたのは今の雷魔力のせいだろ。翼を無意味に庇ってるお前に言われたくはないな。」
何とか立ち上がり強がっては見せるが、先程のダメージは小さくはなかった。
物理攻撃ではなくとも、魔法で圧力攻撃を受けたかのような体内に残るものである。
反面、首にはしっかりとダミアンの手形が残っているだろうが、こちらはダメージ的には大した事はなかった。
「わたくしが背を庇っている事に気付きながらも、狙い打ちをしないのですか?お優しい事ですねぇ。」
「一瞬で終わらせても詰まらないからだ。」
綺麗な顔なのに、口の端だけを上げるようにして笑うダミアン。
俺を煽っているつもりなのかは不明だが、彼が全力で掛かってくれば負傷くらいはする。こちらは圧倒的に実質的な経験不足なのだから。
「前魔王様はお近くに寄る事すら出来ませんでしたが、貴方様はこのわたくしをお側に置いてくださる。何と素晴らしい。」
選挙の候補者のように、大仰な身振り手振りで告げる。
確かに、魔族の寿命は長い為、力ある者に目すら向けられず終える者も多くいた。だがダミアンは違う
「お前はインゴフが選んだ、現魔族最強の一人だろ。まぁ、使えないようなら俺も前魔王のように入れ換えるがな。」
「な…っ。」
ニッと笑って見せれば、今更のように顔色を悪くするダミアン。
宰相と四魔将軍は魔王である俺と核を連結させているが、彼等の生死自体は俺と関係しない。つまりは変更は出来ずとも、消す事は出来るのだ。
ちなみに前魔王は、幾度か魔将軍を変えている。