1.魔王は人族でした─2
「やっぱり、魔力の得手不得手もあるんだろうな。氷と風の魔法には、めっぽう強いし。」
俺は宙に炎と土の魔力で作り上げた針を浮かせていた。長さは50センチ程で、太さは親指くらい。
だがダミアンは、未だに戦闘体勢に入らない。両腕を下げたまま両足を広げて立ち、真っ直ぐ俺を見ている。
「何故構えない。ナメてんのか?」
これがまともに当たれば、確実に傷を付ける。
肩で息をしているダミアンだが、まだまだ余力は残している筈だ。見た目は何とか立ち上がっているふうだが、その瞳からは輝きが消えていないから。
「ふふふ…っ。」
眉頭を寄せる俺に対し、何故かダミアンは楽しそうに笑い出す。
「わたくしは楽しいのですよ。これ程までに己に土を付ける者等、あなた様以外にはおりませぬから。」
「…あぁ、そうかい。んじゃ、そのまま射抜かれろ。」
俺は言葉が終わると共に、ダミアンに向けて魔法の針を飛ばした。
それは避けもしない彼の両肩を軽々と撃ち抜き、地下鍛練場の反対側の壁に突き刺さる。
両肩を射抜かれたダミアンは、攻撃を受けた直後は後ろに揺らめいたものの、反動で前方に上半身を倒したまま動かなくなった。
そのまま静寂が場を制する。
「く…、くくく…っ。」
押し殺した声が聞こえ、笑い声だと気付くのに時間は掛からなかった。
俺はそれに対し、スイッチが入ったな、くらいにか思わなかったが。
「あ~…、何て楽しいのでしょう。この感覚…、素敵ですねぇ…っ。」
ダミアンはそう言いながらも、左肩の穴に右の人差し指をグリグリと突き刺し、掻き回す。
黒い靄がいっそう沸き上がり、大気に溶けていった。
「良いですよ、魔王様。制限が解除されました。さぁ、もっと楽しく遊びましょうか。」
バサリと背中の翼を広げると、ダミアンはフワリと浮かび上がる。
表情は恍惚としていて笑みまで浮かべていたが、先程までとは明らかに気迫が違った。──言うなれば殺気。
「良いぜ。」
知らず笑みを浮かべた俺は、半分魔力に酔っていたのだろう。
「氷針。」
ダミアンがニコッと微笑んで魔法を発動。周囲に何百、何千の氷の針が発生する。
間をおかず、それ等は一直線に俺へ向かって飛んできた。
「土壁。」
風の盾では心許ないと思い、土の壁を形成する。
直後、弾丸の嵐を受けるかのような連続した打撃音が響いた。
その轟音の最中、上空に向けた土壁の隙間──足元からダミアンが飛び込んでくる。
「くっ!」
咄嗟に後ろ向きに飛ぶも、奴のスピードの方が上だった。