1.魔王は人族でした─1
魔王としての統治が始まったとはいえ、実際には以前と大して変わらない雑用ばかり。
「魔王様。こちらの書類にもお目通しをお願い致します。」
「あぁ。ダミアン、こっちのここは少しおかしいぞ。前の報告と噛み合わない。」
「失礼致します…はい、そのようですね。畏まりました。早急に確認をするように通達致します。」
代わり映えなく、ダミアンの執務室で羊皮紙をやり取りする俺達。
双方共に執務机の上は山積みで、嵩張る書類を掻き分けながら処理していくだけの毎日だ。
だが俺は、元来じっとしているのは苦手である。
「あ~っ、もう!何なんだ、この申請はっ。ジスヴァルトはまたアルドに書類を持って来させたのか?」
「はい、そのようです。」
「くそっ、アイツにはこっちに顔を出せって言ってあるのに…っ。」
苛立ちばかりがつのる為、何に掛けても怒れてくるのが今の俺だった。
それに対してはダミアンも苦笑してみせるばかりで、苛立ちの原因が分かっているだけに対処に困っているのが実情だろう。
「~~~~~っ、……ダメだ。」
パタリとやりかけの羊皮紙の上に顔から倒れ込み、今の自分にダメ出しをする。
ダミアンに当たったところで何が変わるでもなく、執務室の空気が悪くなるばかりだと頭では理解しているのだ。それでも口から出るのは怒りばかり。
完全にストレスが溜まっていたのである。
「ダミアン。少し身体を貸せ。」
「は……、はいぃっ!」
顔を伏せたままで呟いた言葉に一瞬の戸惑いの後、妙なテンションで立ち上がるダミアン。
しまったと思ったのはすぐ後だったが、かといって大して変わらないかとも思って言葉を紡ぐのをやめた。「鍛練場に行くぞ。」
言うが早いか、俺は広げていた羊皮紙を手早く丸め、勢いよく立ち上がった。
もうこれ以上ストレスを溜め込むのは、明らかに身体に良くない。それしか頭になかった。
◆ ◆ ◆
「どうした、ダミアン。それしきか?」
地に片膝をつけているダミアンに、嘲るように問う。
俺は普段は押さえている全魔力を使い、低レベルな魔法から徐々に力を上げてダミアンに向けて放っていた。勿論、これくらいではコイツに致命傷を与える事などないと判断してである。
「い…え…、まだ…っ。」
グッと歯を食い縛るように立ち上がったダミアンは、既に何度も地に転がされて満身創痍といった状態だ。
背中の本来焦げ茶の羽根は砂埃で白くなり、自慢の腰まである銀髪は見るも無惨な絡まりである。
ゴロゴロ地面を転がれば、そうなるのも当たり前か。