6.魔王は試作試行役ですか─11
ニコラをコンラートの頭脳にした事で、魔道具の質は明らかに向上した。
ミカエラの方は、黒雀をつけた事で彼女の仕事内容が逐一分かり、予想以上に細やかな動きをしていたのだと分かる。勿論、こちらから幾度か指示をする事もあった。
アルフォシーナは集落の揉め事を納めた事で評価が上がったのか、執務室に入り浸る事なく家に頻繁に帰るようになったとの事。おかげで彼女の執務室は混沌とする事もなく、今も綺麗な状態を保っている。
フランツは他の隊長格に俺の存在を認めさせた事で、当初の刺々しい態度は鳴りを潜め、表立って反抗の態度を表しはしなくなった。まぁ、尊敬とかのレベルではないようだが。
ダミアンは──通常営業だ。仕事は本当に出来るのだが、いつものように俺が気を抜けば変態度をMAXに勝手に盛り上がって身悶えている。
そんなこんなで一通り次期宰相候補者を見たが、やはりというか適任はアイツしかいない。
って事で、俺は彼等を玉座の間に呼び出した。
「そろそろ、次期宰相を決定しようかと思う。」
玉座に腰掛けた俺の前に、次期宰相候補者の5人が跪いている。俺の右側には筆頭魔法士のインゴフ・ドウダ。
相変わらず毛むくじゃらの手足は飾りのようで、蛇の胴体でその場に佇んでいた。
「魔王様。御理解、しているとは、存じますが、どの候補者を、選ばれようと、就任後の、変更は、利きませぬ故、御注意、下さいませ。」
インゴフののんびりテンポで、改めての指摘である。
勿論俺もそれを分かっていたからこそ、わざわざ候補者を一人一人吟味した訳だ。
「分かってる。変更はない。」
「畏まりました。では宜しく、お願い致します。」
軽く頭を下げるインゴフだが、身の丈5メートル以上の魔族である。
大して大きさは変わらないのではと思いつつ、そんな事を口にしても詮のない問題でもあった。
「次期宰相は、ダミアン・ルーガス・ヘイツとする。」
これ以上引き延ばしても仕方がない為、俺はすぐに決定した名を呼ぶ。
「……はっ。」
一瞬の沈黙後、ダミアンの声が玉座の間に響いた。
「はっ。有り難き幸せに御座います。誠心誠意職務に殉ずる所存で御座います。」
深く頭を垂れるダミアン。
その姿を確認したあと、俺は残りの候補者達を見回す。
「コンラートは南方。ミカエラは東方。アルフォシーナは西方。フランツは北方とそれぞれが将軍職に就き、共に俺を支えてくれないか。」
「御意。」
「分かったわぁ。」
「ん。」
「了解~。」
全員の了承を受け、俺は小さく息を吐いた。
個々を見てきたつもりだが、本人達の希望を聞いた訳ではない。知らず知らず緊張していたようだ。
そうして長く掛かった次期宰相も決まり、本格的にこれから俺の魔王としての統治が始まる事となる。