6.魔王は試作試行役ですか─8
そして翌日。
俺はダミアンと共に、地下の宝物庫に来ていた。
「凄いな…。これ、全部魔道具か?」
半ば呆れた声になってしまった俺。
何故ならば、目の前にあるのは無造作に積み上げられた山。
整頓されていれば宝に見えるのだろうが、現状からしてみればゴミの山である。
「はい、魔王様。これ等はルティン一族が作り上げた逸品でして、効果が高いものを集めております。どれも魔法効率が高く、これなどは姿を偽る事の出来る幻覚魔法が組み込まれている物です。」
楽しそうに話すのは、玩具を前にした子供のようだ。
ダミアンが手にしているのは、ペンダント状の掌に収まる小さな魔道具。装飾品としても使え、実用的ではある。
「もう少し整頓してくれ。って言うか、こういう物がコンラートにも作れるんだろ?もっと発想を柔軟にしてくれないかなぁ。水魔法で植物に水やりなんて、当たり前過ぎて突っ込みたくなるし。」
「はい、魔王様。それはわたくしも同感で御座います。コンラートは視野が狭いのか発想が乏しいのか、応用力が著しく欠けております。」
軽く溜め息をつきながら告げると、ダミアンの評価も似たようなものだった。──整頓の件は軽く流されたけどな。
魔道具を作る技能があっても、想像力が足りないのであれば物凄く勿体ない。
「誰か、他に頭の柔らかい奴はいないのか?指図されるのも嫌いそうだろ、あの手の奴は。」
目の前に広がるゴミ山──魔道具を見上げる。
筋肉をこよなく愛するコンラートだが、魔力干渉能力を持つという特殊な男。しかしながら極めて脳筋に近い、短絡的発想しか持ち合わせていない残念仕様だ。
「そうですね。魔王様、ニコラ・アデルはいかがでしょうか。コンラートの所にいた、フードを被った小柄な男です。」
俺の言葉を受け、僅かに思考したダミアンが告げる。
名前だけでは誰の事か分からなかったが、そこまで言われればさすがに通じた。
「あの小男、魔道具に精通しているのか?」
「はい、魔王様。そうでなければ、今頃コンラートに追い出されています。彼は獣人族兎種なのですが、その外見を気にしているようでして。いつもああしてフードを深く被り、容姿を隠しております。」
俺の問いに答えつつも、ダミアンが珍しく小さく溜め息をつく。
「何だ、ダミアン。心配事か?」
「心配事と言う程では御座いませんが。ニコラ・アデルは柔軟な発想力を持ち、魔力は低いものの魔道具の扱いも長けております。今のまま彼をただの補佐官にしておく事は、勿体ないと思うのです。」
溜め息の理由を問えば、ニコラに対しての事だった。
ダミアンが他の者に特別な感情を向けているのを初めて見た為か、不思議と俺もニコラに興味を持つ。
だが引き摺り出すにしても、本人の意志が重要なんだよな。