6.魔王は試作試行役ですか─5
「ダミアン。魔道具は使用者の魔力を吸い取る性質はないよな?」
「はい、魔王様。魔道具は意思のない道具ですので、与えられた魔力を手順通りに処理するのみでございます。」
今にもこちら側に駆け出しそうなダミアンに声を掛け、とりあえず冷静に戻しておく。
いざとなったら彼の力が必要になると思われたからだ。
「コンラート。俺の魔力でこれが崩壊する事があっても良いか?」
「は…?い、いえ…はい、魔王様。魔道具とはいえ、道具はいずれ壊れるものに御座ります故。」
コンラートは僅かな困惑を見せたが、すぐに恭しく頭を垂れた。
よし、こっちも言質をとったぞ。どう反応してくるかにもよるが、最悪の場合は考えておかねばならない。
そして俺は、掌の魔道具に吸収される以上の魔力を込めていく。勿論、火魔力だ。
この魔道具は、魔物の生物素材から出来ているらしい。最早生命体としての存在意義はない筈なのだが、何故か素直に俺の魔力に従われたくはないようなのだ。
たかが水魔法を放つだけの魔道具が、俺の魔力容量に敵う筈ないだろ。──なんて思っていたのだが、これが中々に大変だった。
力ずくでというのも気に入らないのか、魔道具の魔力吸収は止まらない。もう既に全体量の半分を切ったな。
「魔王様、もうお止めくださいっ!」
ダミアンの落ち着きがなくなってきた。
だが、魔道具の方も限界が近そうである。青い石が不自然に明滅を始めているからだ。
「もう少し…っ。」
そして俺が、それまでの魔道具からの魔力吸収量を上回る火魔力を流し込んだ時である。
耳をつんざく甲高い音と共に、魔道具は大量の水を放出したのだった。
「おぉ、素晴らしい…。」
それまで羊皮紙に試行実験結果を書き連ねていたコンラートだったが、魔道具が発動した事により感嘆の声をあげる。
「ったく、頑固な魔道具だな。コンラート、これは使えんぞ。魔力を7割がた持っていかれた。それでこの程度の水だ。発動効率が悪すぎる。」
ずぶ濡れになった俺は、駆け付けたダミアンを手で制して炎装を発動させた。
全身に炎を鎧のように纏う事で、濡れた身体を乾かしたのである。
「さすがで御座りまする、魔王様。魔力をその様な事にまで使えるとは驚きました。素晴らしい火魔法の使い手に御座りまするな。」
「世辞は良い。とにかくその魔道具は没だ。分かったな。」
「御意。」
漸くコンラートに首肯させた。
しかし疲れたぞ。
「ダミアン。」
「はっ。ではコンラート。本日の試行実験はこれにて終了と致します。新たな魔道具を開発出来ましたら、わたくしに報告をお願いします。」
「分かり申した、ダミアン殿。魔王様。本日は私の魔道具に貴重な御時間を割いて頂き、誠に感謝致しまする。」
「あぁ。」
ダミアンの名を呼ぶと、何も言わずとも魔道具試行の終了を告げる。
本当に気が利くよな──変態だけど。