6.魔王は試作試行役ですか─3
「魔王様も御存知でしょうが、私は魔道具を開発する事を生業としておりまする。今までも多くの魔道具を生み出し作り上げてきました故、それらはとても優秀なので御座りまする。言うならば、一つの改善点を抱えている事。」
「一つばかりではありませんがね。」
大仰に話し始めるコンラートだったが、不意に俺の背後から冷たい指摘が入る。いつものように俺の斜め左後ろに立っていたダミアンからだ。
──そう言えば、何故当然のように俺と一緒にいるんだ?仕事は良いのかよ、お前。
そんな事を思いつつも、ダミアンの言葉の続きが気になる。
「何だ、問題ってのは。魔道具が作れるなら、実益を兼ね備える立派な趣味だろ?」
「お言葉ですが、魔王様。コンラートの作る魔道具は高品質ですが経費が掛かり過ぎ、かつ成功例が非常に少ないのです。とても実益を得るまでに至っておりません。」
軽く後ろを振り返ってダミアンに問えば、当たり前に報告が返ってきた。
高品質で経費が掛かるのは分かるが、成功例が少ないって失敗が多い──つまりは赤字って事だよな。
「何を仰います、ダミアン殿。私の試作魔道具を試行する者がいない事が問題だと幾度となく話し合った筈ではないですか。」
「使用者の魔力調整を無視して暴発するような代物など、誰が好んで試したいと思うものですか。」
「暴発…。」
コンラートとダミアンの会話に、思わず突っ込んでしまう。
魔道具における魔力は、電力と置き換えて考える事が出来る筈なんだが。入力と出力の関係がおかしいのか?
「試行役に問題があるのです。私の魔道具は、計算上では…。」
「机上の算出における産物です。実際に動力源として魔力を込めれば、試行役の負傷者が絶えません。実際にわたくしも試行役を買って出た事がありますが、あれは道具とは言い難い代物ですね。」
テーブルを挟んで対面にいるコンラートと、俺の背後のダミアンが口論となっていた。
「私の魔道具は優秀で御座りまする。現に今は水を自在に出す事の出来る魔道具を開発しておりまする。」
「水魔力の使い手が行えば良い事でしょう。」
「水の魔力を持たぬ者に扱えるようにするのが魔道具なのですぞ。」
二人の会話は平行線を辿るばかりで解決しない。
そこで試す役がいないのならばと、俺は深く考えもしなかった。
「俺がやろうか?」
「「魔王様っ!」」
何故か二人に叫ばれる。
「なりません、魔王様。あれは非常に危険な代物です。御身に何かあったらどうなさるおつもりですかっ。」
「誠に感謝致しまする、魔王様。私の魔道具は危険物では御座らぬ故、安心して御試し下さいませ。」
ダミアンとコンラートの言い分は真逆だったが、二人共俺に急接近して来たのでサイズの圧迫感が半端ない。
でもこのままここで揉めてたって埒が明かないし、水魔力の魔道具なら余程損害が出ないだろうと思ったのだ。