6.魔王は試作試行役ですか─1
ミカエラの執務室で黒雀と戯れる彼女等を見ていた俺だが、静かなノックの音に誘われて視線を扉へ向ける。
「御待たせ致しました、魔王様。コンラートと話がつきましたので、御案内したいと存じます。」
「おぉ、そうか。けど、ダミアンは大丈夫なのか?俺の案内なんて、他の誰でも良いだろ。」
恭しく頭を下げたダミアンに対し、ソファーから立ち上がりながらもそう口にしていた。
今更なのだが執事や女官、侍女だっている。
部屋の場所さえ分かれば俺一人でも行けるし、案内くらいは誰だって出来るだろう。
「何を仰いますか、魔王様。もしかして、わたくしが疎ましいですか?」
急に俺の前に跪くと、ウルウルとした金色の瞳を上目遣いに訴えてきた。
ご丁寧に胸の前で両手を組んでさえいる。
「誰もそんな事を言ってないだろ。やめろ、その態度が鬱陶しい。ただ、お前の仕事の邪魔をしていないかと思っただけだ。」
顔をしかめて告げる俺に、後ろからクスクスとミカエラの押し殺した笑いが聞こえてきた。
「いやねぇ、ダミアンちゃん。そんな風に蒼真に取り入ろうとしてもダメよぉ。貴方が被虐趣味なのはわっち達は知ってるけどぉ、蒼真には免疫がないでしょ~?ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないわよぉ。」
黒雀を肩に乗せ、ゆったりとした歩みで寄ってくるミカエラである。
いや、M気質なのは既にバレてるぞ。
「そうなのですか?魔王様。わたくしは被虐趣味という程のものでもありませんが、強い方は男女問わず好ましいと思っています。その御力を存分にわたくしに向けてほしいと常々思っておりますが、中々それほどの強者に巡り会うこと叶わず、長年辛い思いをして参りました。この度魔王様と御会いする事が出来、このダミアン、日々歓喜の涙に咽び泣く程でございます。」
「そうねぇ。ダミアンちゃんより強い魔族って、捜すのが大変なくらいよねぇ。」
長々と口上を述べるダミアンを、ミカエラは合いの手を入れて囃す。
遠い目をしながらそのやり取りを見ていたが、これを止めなければならないのは俺の役目なのだと我に返った。
「はいはい。行くぞ、ダミアン。ミカエラ、黒雀を頼むな。」
「あ、魔王様っ。すぐに御一緒させていただきますっ。」
「はぁい、蒼真ぁ。この子、大切にするわ~。」
だが俺は言いたい事だけ告げ、さっさと背を向けて部屋を出る。
自分の世界に入ったダミアンを連れ戻すのは難儀だし、非常に疲れるのだ。ミカエラも取り持つ気はなかったようだし、そもそも時間の無駄である。
ダミアンは置いていけば勝手についてくる──少しおバカな大型犬のようだ──し、ミカエラは渡した玩具に夢中だからな。
そんな思いからの行動だったが、予想通りの展開に若干頭痛がするのは気のせいだと思いたい。