5.魔王を誘惑してはいけません─10
「さすがです、魔王様。まだまだわたくしの拝見した事のない御力があるようで、このダミアン、感服致しました。」
胸の前で手を組むようにして、ダミアンが天井を見上げる。
相変わらず大袈裟な奴だ。ってか、お前だって全ての力を見せている訳じゃないだろ。
「世辞はいらん。それよりミカエラに影をつけるなら、俺自身はコンラートの方を見に行けるか。ダミアン。」
「はっ。畏まりました。少しの間、御前を失礼いたします。」
俺が全て言わなくても、すぐさま反応するダミアン。頭を下げ、退室していった。
これでミカエラの執務室には俺と彼女等になる訳だが。俺は自分の闇魔力を練り上げる。
「蒼真ぁ?ダミアンちゃんが行っちゃったから、戻ってくるまでわっちと遊びましょう?」
相変わらず無駄にクネクネと身体を動かし、ソファーの対面から身体を乗り出してくるミカエラ。
体勢からその豊満な胸が非常に悩ましい角度ではあるが、俺の意識は魔力を練り上げる方に多く向いているのだ。
「蒼真ぁ?「遊びましょう?」」
反応の薄い俺に小首を傾げながらも、ミカエラは二人して俺の両サイドから接近してくる。
だが、ここで俺の闇影が完成した。
「「あら…。」」
自分達の目の前に現れた黒い小鳥に、二人のミカエラが目を見開く。
それぞれの前──テーブル上に現れた雀サイズの小鳥は、チョンチョンと跳ねながら彼女等の膝上に飛び乗った。クリクリとした大きな目が印象的で、小さく幾度も首を動かしながら瞬きを繰り返す。
「「いや~ん、何この可愛いの~っ!」」
ミカエラが二人して叫ぶが、黒雀は軽く羽ばたいたくらいで飛び去りはしなかった。
「「蒼真ぁ、蒼真ぁ!」」
興奮している様子のミカエラ。頬を赤らめて身悶えている。
やはり女性は、たとえ魔族でも可愛いものが好きなようだ。食糧認識をしない者であれば、こういった姿の存在は無視出来ないのだな。
「それは俺の影だ。単体ごとに俺と意識が繋がっている。それをお前達につけるから、常に行動を共にしてほしい。」
「「えっ、これ蒼真なのぉっ!凄い可愛いっ!」」
俺の言葉を聞くが早いか、抱き潰しそうな程の勢いで黒雀を捕まえそうになった。だが、そこは雀としての素早さで巧く回避する。
それでも彼女達の意識は黒雀にとらわれたままで、俺がソファーを対面に移動した事にすら気付いていなかった。
イメージ通りの出来だ。あの小鳥特有の俊敏さと微笑ましい動きで、見事にミカエラの誘惑に成功したらしい。
「潰し殺すなよ?」
「「分かってるわよぉ。」こんなに可愛いんだものぉ!「絶対に手放したりしないわぁ!」」
皮肉る俺にも、ミカエラは二人して首を横に振りながら断言した。
首ったけ、と言った方が的確か。これで俺の身の安全も少しは確保されたかな?