5.魔王を誘惑してはいけません─8
「OK、分かった。羊皮紙に書き記すって以外の方法を考える。」
俺はミカエラに向け、そう告げた。
実際に使ってみると分かるが、羊皮紙は書き記し難いんだよな。紙のようにインクが伸びないし、皮なだけあって都度ペン先が引っ掛かる。──ちなみに、筆記具として使っているのは鳥系生物の羽ペンだ。
合わせて、長期保存に向かない。丸めると嵩張るし。欠点はいろいろあるが、それでも紙がない以上仕方がないのだ。
紙を作るか?いや、文明を起こしたところでなぁ。そもそも、書くという行為自体が魔族に好まれないだろう。
せっかく魔法があるのだから、これを使って何か記録媒体として書き込めたりしないだろうか…。
「ダミアン。魔族は全てにおいて、魔力を持っているんだよな?」
「はい、魔王様。魔族の肉体を構成しているものが魔力ですので、量の差はあれども持たざる者はおりません。」
自分の思考に入っている俺だったが、不意に思った疑問を投げ掛ければ、斜め後ろのダミアンは即答してくれた。
「なぁに?蒼真、新しい玩具を見つけた子供みたいよぉ?」
ミカエラに指摘され、知らず表情に出ていたらしい。
「魔王様には深いお考えがあるのです。ミカエラはお黙りなさい。」
「「もぅ、ダミアンちゃんってば意地悪ぅ。」」
それをダミアンに鋭く言い放たれ、ミカエラが二人して拗ねた。
服装は違えど、顔や仕草は全く瓜二つである。──まぁ、分身体なので当たり前だが。
「とにかく、ミカエラの仕事を観察したい。」
「でもぉ、「蒼真と一緒には」無理かもしれないわねぇ。」
「何?」
ほんの少しだけ困った顔をするミカエラに、俺は僅かに不快感を示す。
「ごめんなさいねぇ?「わっちがしている事ってぇ、高位魔族達とのお喋りだものぉ。」多分、蒼真が聞いても楽しくないと思うわよぉ?「男の落とし方とかぁ…。」自分を美しく見せる方法とかぁ…。」
そして二人のミカエラが交互に口を開く。
動作もシンクロしている為、思わず寄り目にして重ね合わせて──なんて現実逃避をしたくなった。
だが、言っている内容は理解出来る。
女性同士の会話や噂から、幅広く情報を集めるのがミカエラの仕事のようだ。その中で上手く情報操作もしているのだろう。
魔族とはいえ、男と女では思考も行動パターンも違う。そこに俺が顔を出しては、話せる事も話せなくなってしまうだろう。
「そうか…。」
それしか答えようがなかった。
隠れて見ようにも、無意識で魔力ただ漏れな俺には向かない。
これは早急に記憶を読み取る物とか、隠しカメラ的な物がほしいな。
「蒼真ぁ、大丈夫ぅ?」
「いや、何でもない。では、俺はミカエラの仕事を直接見る事は出来ないと言う結論で良いんだな。」
押し黙った俺に心配そうに視線を向けるミカエラ。
だが俺としては、ハッキリと結論がほしい。
こんなことで無駄に時間を掛けてはいられないのだ。




