5.魔王を誘惑してはいけません─6
「本当にぃ?」
疑っている訳ではないのだろうが、ミカエラから上目遣いプラス前のめりに接近される。
嫌でも彼女の谷間に視線が向き、押さえている俺の鼻が悲鳴をあげそうだった。
「分かったから…、近いっての。」
無意識に身体を引きつつ、自分の視線を強引にミカエラの顔へ移動させる。
「蒼真ぁ。」
「はいはい。で、ミカエラの分身の仕事は?」
妙に甘えた声を出すミカエラを適当に流しつつ、先程の質問を少し変えて問い掛けた。
確かミカエラは、鬼族妖狐種だった筈。
「んもぅ、わっちの事はどうでも良いのぉ?」
「だからお前の事だろ。俺は本人の能力と性格を見たいんだ。本体が遊んでようが、分身はミカエラである事に変わりはないだろ。」
唇を尖らせたミカエラに、俺は次期宰相候補者達の選出方法を告げる。
既に終わっているダミアンとアルフォシーナは、この事を知っているので隠す必要もない。
「そりゃあ、分身ちゃんもわっちだけどぉ。蒼真が興味あるのが分身ちゃんだって言うなら、わっちは嫉妬しちゃうんだけどぉ?」
身体を不必要にくねらせ、拗ねている態度を現しているミカエラ。
面倒だな、本当に。
「…話にならないなら、俺の方から分身を捜すが?」
少々面倒になり、自然に視線が鋭くなってくる。──って言っても、何だか締まらない。
斜め後ろにダミアンが、右横にアルフォシーナがいる状態の俺。虎の威を借る狐だっけ?
妙に守られてる感があって、これじゃあミカエラの本心も聞き出せない。
「とにかく。明日また来るから、考えておいてくれ。ダミアン、アルフォシーナ。今日はこのまま執務室に行く。」
「「はっ。」」
告げると共に立ち上がった俺に、二人は即座に返答をする。
こういう時、素直に言葉を聞き入れてくれる二人はやり易いな。これがフランツとかだと、絶対に何か言い返してくるだろうし。
後ろでミカエラが何やら騒いでいたが、俺の耳は既に彼女に関する仕事を放棄していた。
そもそも、初めからまともな応対をしてこない奴が悪いだろ。
「ダミアン。ミカエラに明日の朝イチで確認しておいてくれ。返答次第では、先にコンラートから回る。」
「畏まりました。」
廊下を行く中、定位置である斜め左後ろを歩くダミアンに言えば、すぐに返答がある。
やはり、宰相は細やかな気遣いが出来ないとダメだよな。──けれども変態だが。
内心で溜め息をつきつつ、視線は正面に向けたまま周囲の気配を探る。
アルフォシーナはミカエラの執務室を出た直後からまた姿を消しており、彼女は根っからの隠密なのだと納得してしまった。
実際、今から行く執務室ってのはダミアンのとこだから、アルフォシーナは何処からかそのうち出てくるのだろうとも思うがな。