1.魔王になりました─7
ドンドンと、地鳴りのような音が聞こえる。
「魔法士様、開けて下さいっ。」
どうやら、廊下でダミアンが暴れているようだ。
ってか、自分では中に入れないのか?
「騒々しいの、ヘイツ次期宰相候補。」
のんびりとした様子でインゴフが応え、スルスルと扉まで這って行く。
何だ?その毛むくじゃらの足は、歩行する為についてる訳じゃないのかよ。
「少しは、静かに、待てんのか。」
インゴフは巨大な黒い扉を開け、その下にいた翼ある男をみやる。
やっぱり、簡単に開くんじゃないかよ。ってかインゴフ、ダミアンと比べても本当に大きいな。
ボンヤリと二人のやり取りを見ていたが、ダミアンはインゴフに大した説明もなく、横をすり抜ける。
そして何故か、俺の傍にツカツカと、しかも足早に歩み寄ってきた。
「…何だよ、ダミアン。」
インゴフ程の高さではないにしろ、近くで見下ろされるのは癪に障る。
先程の動揺もあり、問い返す声が僅かに震えてしまった。
それに気付いて焦った俺だったが、反論する間もなく、ダミアンに跪かれる。
「なっ?!」
「此度の乱入、申し訳ございません。あまりにも魔王様のお心が波立っておられた故、大人しくなど待っていられませんでした。」
深く頭を下げたまま、ダミアンが静かに告げた。
「…別に俺は、ダミアンが入ってきても、都合悪い事はないけどな。」
色々問いたいが、とりあえず目の前で跪かれているのが気になる。
「それでは、お許し頂けると申されますか?わたくしがお傍にいても、宜しいのですね?」
「あ、あぁ…。」
勢い良く顔を上げられ、すがるように言い募られた。
その強い口調で、許すも何もないと思うがな。
思わず頷くと、今度は勢い良く立ち上がり、覆い被されるように抱き付かれた。
「っ!や、やめろっ!」
「嬉しいです、嬉しいですっ!魔王様~っ。」
だがそれに対し、インゴフが制止の声を掛ける。
「阿呆、やめんか、ヘイツ次期宰相候補。ソーマの息の根を、とめるつもりか?」
「ソーマ…?魔法士様っ。貴方ともあろうお方が、魔王様をその様な、し、し、し、親しげな呼び方をするなどっ!」
今度はインゴフに向かって、食って掛かるダミアン。
何が怒りのスイッチだか、俺にはさっぱりだ。
でもって、それよりも俺を解放しろ。本当に息の根を止める気かよ。
ダミアンの胸元に顔を押し付けられる形で、動きを封じられている俺。そろそろ本当に、酸欠でヤバい。