5.魔王を誘惑してはいけません─5
「そうなのぉ?そうなのねぇっ?わっちが蒼真にだけ見せれば良いのに、他の魔族に見せるからダメなのねぇ!?」
急にミカエラが張り切り出す。拳を両手に作り、何故だか燃えていた。
「いや、別に俺じゃなくて良いから。」
「わっちはあの時から、蒼真にこの身体を渡したも同然だものぉ。好きに使っても良いわぁ!」
慌てる俺に構う事なく、ミカエラは突然身に纏った衣類を破り捨てる。目の前に顕になる二つのマシュマロ。
その瞬間、俺の脳ミソが爆発──いや、ショートした。
「ミカエラ。それ以上はダメ。魔王様が見たくないって。」
半ば意識を飛ばして口から煙が出そうな俺の耳に、辛うじて高めの声音が前方から聞こえた。
そして更に、フラりとソファーに倒れ込みそうになる身体を支える大きな肉体を背後に感じた。
「いい加減になさい、ミカエラ。魔王様が御求めにならない限り、強引に迫る事は禁止した筈です。」
続けて冷たく言い放たれた言葉に、アルフォシーナとダミアンだと僅かに残る意識が判断している。
「だってぇ。わっちは蒼真の受け皿なのにぃ、指一本たりとも触れてくれないんだものぉ。」
「だから魔王様が望んでいないって言ってるでしょっ。」
「そうです。アルフォシーナの言うように、魔王様は魔力の発散を求めておられないのです。それを強引に奪うのは強奪。反逆に値すると判断しますが?」
自ら破り捨てた衣類をアルフォシーナが現れた途端に元通りにしたミカエラは、それでも反逆と言うダミアンの言葉に口をつぐんだ。
「そんなつもりは…ないのよぉ?」
「思惑などは関係ありません。事実のみが証拠です。」
「ミカエラも一度、その脂肪の塊に押し潰されてみたら良いんだっ。あ、あたしにないからじゃないんだからねっ。」
恐れを見せ始めたミカエラに、更にダミアンが言い募る。
そしてアルフォシーナからは、微妙に論点のズレた文句が続けられた。
「何よぉ。ダミアンちゃんもアルフォシーナちゃんも、蒼真といっぱいお話してるからそう言う事を言うのよぉっ。」
二人から同時に責められ、ミカエラが泣き言を漏らす。
「…っ。だから、次はミカエラの番だって言ったろ。」
俺は三人のやり取りを何処か遠くに聞きつつ、漸く身体を預けていたダミアンから復活した。
目頭を押さえているのは泣けてきた訳ではなく、鼻血が出そうな俺の痩せ我慢でもある。
頑張れ、俺の鼻。ここで噴水流血なんて、一生の恥だぞっ。
な、ナマで裸体を見たのが初めてだったのは認めるが──い、一瞬だったし。そ、それにあの程度は雑誌やネットで○◇※▽□。
待て待て待て、俺。恥の上塗りしてどうする。