5.魔王を誘惑してはいけません─4
「ダミアン、助かった。お前は自分の仕事に戻ってもらって構わない。」
「はっ。御用がありましたら何なりとお申し付けくださいませ。では、御前を失礼いたします。」
とりあえず次の観察対象が決まった為、ここまで付き合ってもらったダミアンに礼を告げる。
おいおい。言葉はいつものように堅苦しいが、顔がだらしなく緩んでるぞ。
──コイツはこれだけで楽しそうだから、ある意味幸せな奴だよな。
「それで、ミカエラの仕事は?」
ダミアンが退室した後、ソファーに腰を落ち着けて改めてミカエラに向き直る。
聞かずとも魔王知識で分かるが、実際の行動を知りたいのだ。
「わっちは蒼真の側室扱いよぉ?魔王様の溢れんばかりの魔力を受ける為、常にここにいるのぉ。」
身体をくねらせ、頬を染めるミカエラ。
いや、そういうのは要らないって言ったし。ってか、その役割もあるのは魔王知識で知ってるけど。
「他の高位魔族達からそういった目で見られている事は知っているが、俺がお前に手をつけた事実はないだろ。それに今までの魔王が行為で魔力を抑え、自我を保っていた事も知識として知っている。だが俺には必要ない。」
俺はハッキリと言葉にした。
盛っている訳ではないし、誰彼構わず襲う趣味もない。婚約者としてリミドラがいるものの、彼女に対しても手を出してはいないのだ。
過去の魔王がどうであれ、俺は性的発散で魔力をコントロールするつもりは皆無だ。
「それじゃあ…、わっちは蒼真の何なのぉ?」
潤ませた瞳で見上げられ、息を呑んだ俺。
金髪ゴージャス水商売系ダイナマイトボディのミカエラが、相変わらずの簡単に裸体が想像出来る服装で上目遣いなのである。
ちなみに当たり前──というか、俺は清い身体だ。ナマの女性の裸体を知らない。
そしてなまじ半端な知識だけがあるせいで、余計に想像豊かになる健全な高校2年生だったんだぞ。
「………ミカエラ。もう少し服装をどうにか出来ないのか。」
大きく息を吐きながら、俺は片手でこめかみを揉む。
冷静になれ、俺。ミカエラの身体に誘惑されてどうするんだ。
──俺は猿じゃない、猿じゃない、猿じゃない…。
「どうしてぇ?わっちはこの格好の方が、動きやすくて良いんだけどぉ。蒼真は嫌ぁ?」
小首を傾げ、人差し指を唇に当てる。
うさみみ角──ロップイヤー的──が可愛いじゃねぇかと、不覚にも思ってしまう。
「好き嫌いの問題ではなく、ミカエラは身体を安売りし過ぎだ。皆に見せてどうする。己の大切な者にだけで良いだろ。」
微妙に視線を外してしまう俺だが、正面に座するミカエラが嫌いな訳ではないのだ。
ただ目のやり場に困るだけで、心ではなく肉体的に反応しそうになるのが怖い。