4.魔王が仲介します─10
この時間の三バカ鍛練が終わったのか、フラヴィアーノが俺に向き直った。
「魔王様。鬼族鴉天狗種への返答は議会を通しまして、こちらから連絡をさせていただきます。担当が誰になるかまだ分かりませんが、問題なければわたくしが務めたいと考えております。」
「あぁ、それで良い。」
フラヴィアーノの真っ直ぐ向けられた視線を返しながら、俺は答える。
彼が使者になれば、アルフォシーナに堂々と会いに行けるからな。
「御心遣いに感謝申し上げます。」
深く頭を下げるフラヴィアーノに、俺は軽く片手を上げて背を向ける。
「任せる。行くぞ、アルフォシーナ。」
そして闇魔力で背に翼を形成して宙に舞い上がった。アルフォシーナも続けて飛び立つ。
これで竜族と鬼族鴉天狗種との媒介は終了だ。仲介者としての仕事はここまでだろう。
魔王城へ帰る道すがら、何気に自分を振り返った。
俺のこの翼、無意識にイメージだけで作ってるけど魔法だよな。詠唱なしで発動させてるけど、闇影の一種か?
自分の能力で飛んでいる事に間違いはないから、他者にどうこう言われる筋合いはない筈。だが、無詠唱を依然驚かれた事に思い当たった。
「アルフォシーナ。俺のこの羽根、違和感があるか?」
「ない。魔王様の魔力を感じる。綺麗。」
ダミアンみたいに恍惚とならず、淡々と口にするアルフォシーナである。でも、珍しく感情論が混ざった。
鬼族鴉天狗種は黒い鴉の翼を持つ種族の為、大きな黒い翼を持つ者も存在する。つまりは見慣れている。
「見慣れているからか?」
「違う。魔王様の羽根、輝いている。だから綺麗。」
父親と同じ真っ直ぐな視線を返してくるアルフォシーナ。
輝いて…。魔力の影響か?いや、身内贔屓か?
「そうか。まぁ、違和感がないなら良いや。」
「ん。…魔王様、ありがとう。」
ボソッと小さな声で礼を告げるアルフォシーナに、俺は思わず振り返った。
「あ~…まぁ…、何だ。たまには集落に帰れよ?」
頬を赤らめている彼女に、俺は戸惑いつつも今まで思っていた事を口にする。
あの嫌な空気に触れるのが嫌だったのだろう。アルフォシーナは魔王城の自分の執務室で寝起きをしていたのだ。
だが、これからそれは大きく変わる筈である。
「ん。」
声と同じく小さく頷いたアルフォシーナは、僅かに口角が上がっていた。
久し振りにみたデレに不思議な喜びを感じつつ、俺達は魔王城へと帰還したのである。
これでアルフォシーナの観察は終わりだな。