4.魔王が仲介します─9
「どうだ、少しはまともになってきたか?」
次に俺は、竜族の里に来た。
今、目の前にはフラヴィアーノの指示を受け、人形竜族と模擬戦中の三バカがいる。一対三だがな。
「そうですね…。里の魔力を受けてか、多少は来た時よりも使えるようにはなっています。かといって、今は肉壁にもならないでしょうが。」
鋭い視線を前方に向けているフラヴィアーノだ。
娘への敵認識が未だに抜けていないのな。
「そうか。あ、鬼族鴉天狗種の長からの正式な応援要請があったぞ。これが書類だ。」
多少顔がひきつってしまうが、俺はなるべく無表情を装い告げた。そして、鬼族鴉天狗種から預かった羊皮紙をアルフォシーナ伝手で渡す。
「確かに承りました。我々も同一種族での鍛練に変化を求めていたところです。今回の魔王様の御言葉に感謝いたします。」
「あ~…まぁ、俺としては面倒事を竜族に押し付けた感があるんだがな。」
思わず本心を告げると、フラヴィアーノは穏やかに目を細めた。
「いいえ、魔王様。種族という垣根を越えて何かを成すなど、我々にはとても考えつかないものであります。わたくしは父親でありながら、この子に能力以外のものを与えられないでいました。」
アルフォシーナに視線を向け、次に俺へ真っ直ぐな視線を戻される。
彼の竜族としての能力の、何がアルフォシーナに引き継がれているのかは詳しく知らない。けれど、弱い力である筈がないのだ。
「それがあるからこそ、アルフォシーナはハーフであってもあの集落で上位に位置する事が出来ているのだろ?俺はアルフォシーナが劣るとは思わない。」
俺もフラヴィアーノの真摯な瞳に向き直る。
彼女が次期宰相候補者の一人である事に、俺はありがたみも感じているのだ。─決して身長云々ではないからな。
「そうですか。…それを聞いて安心致しました。何処でも種族の拘りはあります故。」
そこで話は終わりなのか、フラヴィアーノは再び三バカの模擬戦に視線を向けた。
俺は彼の言葉の意味を考える。
今回の種族の拘りは血筋であったが、これは恐らく高位魔族には付き物の所謂血統なのだろう。
だが遅かれ早かれ、この問題は日の目を見る事になる。魔族の繁殖能力の低さも問題だが、同一種族での繁殖はいずれ近親交配となるからだ。
近親交配が続けば遺伝的多様性を欠き、何等かの原因により全滅する事も考えられる。
第一、現時点での繁殖能力の低さはこれが原因の一つではないかと思うのだ。
2017,01,17誤字訂正