4.魔王が仲介します─8
あれから鬼族鴉天狗種の集落では何の問題も出てない。勿論、竜族の里もだ。
それぞれが自分達の中で解決出来ているうちは、俺が口を出す必要もないからな。だが、全く放置はしていない。
「魔王様。今日も見回り?」
「あぁ。アルフォシーナの問題は家事スキルの欠落だったが、竜族と鬼族鴉天狗種の種族間問題は放置しておけないからな。」
疑問に小首を傾げるアルフォシーナに、俺は闇魔力で形成された翼で羽ばたきながら告げた。
ここは上空。彼女も自らの羽根で斜め後ろを追随してくる。
あの腰についた鴉羽根は飾りではなく、実際に飛ぶ事が可能だったな。
「竜族は鬼族に無関心。」
淡々と事実を口にするアルフォシーナだが、俺の内心は違った。
─逆に鬼族は、竜族に対して強いコンプレックスを持っている。
そう、俺は考えている。事実体格差はあれど、能力的な差はあまりない。
種族内でも勿論異なるが、魔力・腕力ともに並び立つのがその二種族なのだ。大きな違いと言えば竜族はブレスを出し、鬼族は個体特殊能力を持つ事くらい。
「魔王様。今日は先に鬼族鴉天狗種?」
「そうだな。長に鍛練方法の変更を模索するように伝えてから二日経つから、そろそろ結論を聞きに行こうかと思ってる。」
「ん。うちが弱体化してきているのも、鍛練方法が甘いから。」
ハッキリ告げる彼女は、別段間違った事を言っているのではない。
幼い頃から鬼族鴉天狗種としての鍛練を受けつつ、竜族の厳しい鍛練も受けていたのだ。
「まぁ、アルフォシーナは竜族の父さんから鍛練を受けてたんだろ?」
「ん。父様、人形で鍛練してくれた。」
受け答えは淡々としているが、心なしか嬉しそうな感情が伝わってくる。
まぁ、普段が離れて暮らしているから殊更そう思うのだろうがな。
◆ ◆ ◆
「さて、結論は出たかな?」
俺は今、鬼族鴉天狗種の長と相対している。
鴉天狗種の長は長い鼻と山伏のような羽織りを纏った、背に大振りの鴉羽根を持つ御仁だ。
その威厳ある風格に、あの三バカの嘴を思い浮かべて並べる。うん。色々と足りなさすぎて、周囲の見限り感半端ない。
「うむ。魔王様の仰るように、我々は竜族から教えを乞おうと思いまする。」
多少周囲がざわついたが、長も考え尽くした結果だろう事はその真っ直ぐな金色の瞳で分かる。
「そうか。互いの良い点を探し、少しでも魔族が強くある事を望んでほしい。」
「はっ。」
俺の言葉に頭をたれる皆。
納得出来ない部分はあるだろうが、それでも長が出した結論に従おうとするものなのだろう。
つまりは、俺に対する忠義ではない。─くそぉ。