1.魔王になりました─6
「どうしたのだ?ソーマよ。」
「いや…インゴフの方が、発音は良いと思ってな。それより、俺がここに来る事になった説明、アンタがしてくれるって聞いたぜ?」
ボンヤリ見ていたら、インゴフに突っ込まれてしまった。
そうそう。今の俺には、名前の発音よりも大切な、情報収集ってのがあったんだよな。
「そうじゃな。次期魔王様の選抜は、ワシに掛かって、おるからの。」
偉そうに言い放ったインゴフ。
ってか、犯人はお前か。
「どういう意味だよ。」
予想以上に低い声が出た。
だが、一言では表現出来ない怒りが滲み出し、少なからず不穏な言い方になるのは仕方がないと思う。
「すまぬな、ソーマ。お前さんの怒りは、もっともだが、我々にも、理由があるのじゃよ。」
インゴフは頭部を身体の中程まで下げ、謝罪しているかのようだった。
そりゃ、俺もあの時は死んだと思ったし?
実際ここは、訳わかんねぇ雰囲気バリバリだけどさ?
「我等が魔王様の、命の灯火が、消えぬ内に。」
プツプツ途切れる話し方に、聞く気が削がれそうだった。
だが、俺は頑張ったぜ。
聞き終わって頭の中で再構築して、漸く意味が分かる。
「つまりは魔王のくせに、誰かに殺られたと言う訳だな?」
取りつく島もない言い方になった。
だが、簡単に纏めるとそういう意味だろう。
「ソーマよ。…もう少し、柔らかな物言いは、出来んか?」
「は?柔らかいも固いもないんだよ。こっちはそのせいで、こんな辺境に飛ばされてんだぜ?」
インゴフの蛇顔では、感情の表現が出来なさそうである。
それでも、苦笑している感じが伝わってきた。
「選択肢もなく、強制的に召喚だろ?それで魔王になって、人間とでも戦えって?冗談だろ。」
俺は人間だ。
当たり前の事だが、声を大にして言いたい。
「ソーマよ。残念ながら、お前さんは、人間とは、言えない。」
淡々と告げられ、カッとなる。
「ふざけんなっ。俺は人間として生まれて、17年間人間やってきてんだよ。この前誕生日が来たばかりなんだぜっ?」
組んでいた腕を振り下ろし、拳を両手に作った。
思い切り振るったところで、インゴフにこの拳は当たらないだろうけど…怒りが溢れて押さえられない。
「じゃが、ソーマの、人間としての生は、終わった。」
ドクッ。
静かに告げられたインゴフの言葉に、俺の身体が、心臓が、大きな音をたてて震えた。
「ワシが、ソーマを、見つけた時…。」
「ぅわぁあああぁっ!」
インゴフの声を、俺は自らの叫び声で掻き消す。
聞きたくなかった。
俺が死んだ?やっぱりあの時、大型車に…撥ねられた?