プロローグ─1
俺は考える。この永遠と続くかのような落下の最中に。
たしか俺は、学校の帰りだった。いつものようにつまらない日常を過ごし、逢魔が時の薄闇を、いつもの帰宅ルートを通って。何も変わらない日常だった筈なのに。
切っ掛けは、何気に視線を向けた先にあった青信号だった。そこを、小学生の低学年だと思われる小さな男の子が、一人で俯きながら横断歩道を歩いてくる。俺はそれを横目に見ながら、淡々と歩道を歩いていく。
だが不意に、前方から突進してくる大型車が目に映る。それは止まる気がないのか、スピードが緩まる様子もない。再び小学生に視点を移す。少年は気付いてないのか、ただひたすら下を見ながら歩いている。
間に合わない。
気付いたら俺は、横断歩道に飛び込んでいた。
勇敢?当たり前?
違う。ただの愚者だ。そう、バカ。
当たり前だろ?大型車に、生身の肉体で勝てる訳がない。正論だ。
けど、やっちまった。気付いたら少年の腕を引っ張っていて。
あ、急に駆け寄った俺にビビって、あの子の顔がひきつってたな。違うって。俺じゃなくて左を見ろよ、なんて言う余裕、ある筈もなくてさ。
んで、少年を引っ張った反動で、俺と少年の位置が逆転。次の瞬間、あ、死んだなって思った。
この間、数秒だよな。俺、本当に何してんだよ。
まぁ、次に気が付いたら今の状態。真っ暗な中を、多分落ちてる。上も下も、自分の手すら見えないんだけど、そんな気がする。
やっぱ、行き着く先は地獄、ってやつかな。テレビで見た事があるけど、あの想像の世界が本当にあるんだろうか。
って、グダグダ言ってなくても、いずれ分かるか。
ぅおっ?!きゅ、急に明るい場所に出た。って、空じゃねぇか!お、落ちる~っ!
景色が見えている落下は、見えない時の何百倍だな、マジ。俺、今度こそ死んだな。
ぐはっ!
何故だか急に重力を感じる。叩き付けられた?でも、それなら確実に死んでるよな。
腹部に強烈な圧迫を感じる。いや、感じるって事は、生きてる?
「大丈夫ですか?」
誰かに丁寧語で話し掛けられている。
「…な、何とか…な。」
痛みに顔をしかめながらも、俺は顔を上げて、声の主を確認しようとした。
…そこでやめとけば良かった。いや、考えてみれば当たり前?そもそもここは空中だった筈。そして俺は重力に従い、かなりの速度で落下していた…と、思う。
勿論、俺に速度メーターなんてもんは搭載されていない。けど、ビルの上から人が落ちてきて当たったら、その歩行者も命がないってのは聞いた事がある。
あ、こんな事、今はどうでも良いか。