第三:我は弱なり。 我は強なり part3
「ほら、まだ休むなよぉ!」
斐川が再び矢の様な速さで走ってくる。 しかし葉月は全身の力を抜きに抜いた。 そして、重心をやや前にし、左拳を腰に添え、右拳を相手に向ける。
そして右足は前を向き、左脚の爪先はその70度左方に向ける。 これが葉月が自分で考えた独自の構え(まぁ、実際は独自ではなく、親が趣味で教えた空手の構えなのだが)だ。
斐川との距離は約5m。 今も接近中。
(よし、いける!)
全速力で走ってきた斐川が肉薄してきた。 同時に、葉月と斐川は互いの拳と拳を互いの顔面に打ち付けた。
しかし、葉月は顔面に食い込む拳の衝動を利用してそのまま体を捻らせ、斐川の顔にめり込ませた拳を引き戻しながら、回し蹴りでカウンターを狙う。
それに対し斐川は恐ろしい反応速度で体を沈ませ、葉月の蹴りを避ける。 大きく隙が出来てしまった葉月は、斐川が何か仕掛けてくる前に、軸足の左足だけで床をけって距離をとる。
しかし、それだけでは斐川にとって問題になるほどの距離はとれず、本当に一瞬で距離を詰められた。
(引っかかった!)
葉月はこれを待っていた。 軸足だった左足が着地すると同時に力を込め、そのまま全体重を前に載せる。 アンバランスな状態でも、肉薄している相手に一気に突っ込めば問題ない。
そう。 葉月がやりたかったのは渾身のショルダータックル。
結果的にほぼゼロ距離になったうえ、すで殴りかかる動作に入ろうとしていた斐川はかわすことができずにまともにそれを喰らってしまう。、
おまけにあちらから全速力で肉薄してきたので、自分から後ろへ跳んで衝撃を和らげることも出来ず、互いの力が交わり、それが全て斐川の体に響いた。
「ぐ……あぁ……」
脚が床に着地したのを確認すると、左の拳を岩の様に硬く握り締め、後ろへ大きくよろめいた斐川の顔面を狙い、それを解き放つ。
瞬間。 パンッ!と拳の音とは思えないような乾いた音が葉月の耳に届いた。 斐川が葉月の拳を寸でで捕らえたのだ。
「惜しかったね」
斐川が葉月の拳を掴んだまま力を入れて、葉月を前へと押していく。
「やっぱり甘いね、君。 思いっきり殴りかかってきたけど、あまり力ないのに思いっきりやったって意味ないよ? 拳の使い方ってのはこうするんだよ!」
言うと同時に、斐川はがら空きの葉月の腹部へ左の拳を叩きつけた。
「ぐっ……!」
その衝撃で葉月は後ろへよろめき、その隙を狙って斐川は連続で葉月の体に拳を叩きつけた。
腹へ胸へ肩へ腰へ顔へ腕へ。 その全てが葉月の体へと吸い込まれるようにヒットする。
「ホラホラホラ!!!! さっさと反撃しなよ! 天才なんだろ? 凡人を見下せるんだろ!? だったらお前の力を見せろぉ!!!」
「くそ!」
葉月は体を右にずらして飛んできた拳を回避すると同時にそれを自分の腕と絡ませる。
「捉えた!」
「なっ!」
斐川が面食らった隙をついて、彼の右手首を左手で掴む。
そのまま自身の体を中心に180度回転させて行うのは必殺の背負い投げ。
「うおおおおおあ!!!」
そして、地面へと叩き落とさんとばかりに姿勢を低くして上半身を前に倒す。 心の中で葉月は決まったと思った。
しかし、結果はその期待をあっさりと砕いた。 斐川が地面に叩きつけられる直前に、力を流すような受身を取り、そのまま体を捻って葉月の死角で立ち上がったのだ。
「悪いね。 期待させて」
葉月の死角から放たれた斐川の拳は、もはや止めの一撃としか言えないものだった。
葉月の体が弾かれたように飛び、地面についたときには何度も何度も床をただ転がるようにしか出来ないでいた。 転がる勢いが止まると同時に立った時は、ついに壁に背中を預けるような状態で立つのが限界だった。
(く……そ……)
少年がゆっくりと、歩み寄ってくる。 すごく余裕のある動作だった。 しかし、葉月は前へと歩むことが出来ない。 彼へ反撃するほどの力すらもう無い。
少し動いただけで骨が軋む。 少年はとうとう葉月の前まで歩み寄ると、ゆっくりと口を動かした。
「魔法に関しては天才って言われても、喧嘩は全然か。 がっかり……とは言わないけど、もうちょっと『がんばれよ』」
小さくそう言った。 聞こえづらかったけど間違いなくそう言った。 屈辱的とは違ったが、その言葉は何故か葉月の心に刺さった。 少年は続ける。
「そんな風に立ってないで、何かしてくれない? 魔術とかさぁ。 つまらないだろ? 僕は君みたいなやつを叩きのめしたいんだよ。 完膚なきまでにね……。 だから!」
少年は葉月の腹部を膝で思いっきり蹴る。 全身にものすごい激痛が響き渡り、吐いてしまいそうなほど息が詰まる。
ついに咳き込んで腹を抱える葉月を、少年は容赦なく、彼の胸倉を掴んだ。 そして彼に向かって吼えた。
「僕はね、才能のある人間なんて大嫌いなんだ! 精一杯努力をして来た奴らを負かして、見下していく、クズ同然といっても間違いじゃない奴らが!」
大嫌い、ほとんど虚ろになっている意識の中で、それだけは葉月の脳と心に刺さった。 その時、何故か頭の中で、ずっと昔に誰かが言っていた言葉が葉月の脳裏を横切った。
『知ってるか、葉月』
誰かの言葉だ。 もうかなり昔に聞いた、遠くてもうほとんどうろ覚えな。 だけど、忘れることはたぶん無いであろう大きい言葉。
『人間は心の底から人間を嫌いになることは出来ないんだ』
戯言としか言えない詩人のような言葉。 だけど、それは今の自分にとっても、目の前にいるこいつにとっても、可能性につながる言葉だ。 葉月は考える。
(人間が人間を嫌いになれ無いなら………斐川が言っていることは………)
嘘ではないだろう。 それはおそらく間違いない。
しかしそれは、本当に嫌いだという『感情』を持っているのではなく、コイツは嫌いだという『意識』が強いだけなのでは? 可能性の話だが、もしそうだとすれば、
「……お前……それ、本心じゃないだろ」
葉月は呟く様に小さく言い放った。
どもども、望さんです!(はぁ?)だんだんボロボロになっている戦闘シーン。マジで戦闘シーン書くのは鬼難しいです!種類問わず本は色々読んでいますが、イマイチコツというのがつかめません。ほんと、どうやって書くんだろうね〜?(ここでタメ語)まぁどうせ、物語を書いていくうちになれるだろう!(半分逃避)
さてさて、今日はこの辺にしてと。アドバイスやご感想をお待ちしております!
現在、ボイスブログをやっております。
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