第三:我は弱なり。 我は強なり part2
放課後、葉月は目の前の光景にため息をついた。 これで人生何回目の溜め息だろう。 さらに言えば何回幸せを失っているのだろう。 今現在葉月は言われたとおりに闘技場に来たわけであるのだが、何だこれは。
約10m位の前方に、葉月に勝負を申し込んだ少年はニヤニヤと笑いながらこっちを見ている。 あんなのは無視をすれば気に留めることはない。
(だけど……『あれ』はなんだよ?)
葉月は視線だけをギャラリーへと向ける。 そこには、何かのイベントを見に来たようにびっしりと人で詰まった観客ども。
それと、無駄に元気よく応援している姉が一名。 ウザイと思い、葉月はもう一度深く溜め息をついてから、半目であの少年を睨む。
「なにあれ。 アンタあんなに客集めたわけ?」
「おいおい睨むなよ怖いな〜。 それに、集めたんじゃなくて集まったんだ。 自然的にな」
「まぁ、いいけど。 予想通りって顔してるね」
「そりゃそうだ。 なんせ君が俺相手と決闘なんて、あのギャラリーにいる人間達にとってはかなり見物らしいからな」
そんなものなのだろうか。 ふと葉月は考えてみる。正直葉月は自分のことを天才とは思っていない。 まぁ、他に一年生でLEVEL3などいないのだから、多少の才能はあるのだろうとは思っているが。
しかし、目の前の少年と自分に何の差があるのだろうか? そもそもLEVELが高いといっても、それはあくまで『魔力が高い=その日休まずに使える魔法の回数が多い』だけなのだ。
魔力の使い方が下手なら、たとえ葉月のようなLEVEL3でもLEVEL1の魔法を10発前後発動すれば倒れてしまうし、逆に魔力の使い方が上手ければ、目の前の少年のようなLEVEL1が同レベルの魔法を10発以上発動しても、何ら問題はない。
つまりはそういうこと。 しょせんアイツは自分より少しでも才能がある奴を許せない、学校の勉強が出来なくてグレてしまう不良生徒のような奴なのだ。
すぐに終わらせようと、心で呟く。 こんな奴とかかわるのは一分一秒すら勿体無い気がする。
『互いに、名を我が声に乗せてください』
葉月の脳内に女性の声が響く。 魔術的通信法。 もう慣れたが、あまり良い気分にはなれないものだ。 はっきり言って煩い。
一度軽く深呼吸すると、葉月は自分の名前と魔法名を思い浮かべる。 『TEMPESTER』。 意味は騒がせる者。
(名は篠原葉月。 魔法名は『TEMPESTER』)
これを魔術的通信法の魔力に乗せる。 一時置いて彼の名が脳に浮び上がる『斐川泰斗』。 それが彼の名前。 そして直後、再び自分の脳内に彼の『名前』が浮かんだ『C』、『H』、『A』、『S』、『E』、『R』。
合わせてCHASER。 それが彼の魔法名。 直訳すると、意味は追いかける者。 皮肉な名前だと葉月は思った。 この言葉はどういう思いを込めて与えられた名前なのだろうか。
しかし、決闘の時間はそれを考える時間を与えてはくれなかった。 魔術的通信法により葉月の脳内に女性の声が響く。
『それでは、これより魔術での決闘を行います。 開始』
「さぁ、楽しもうか、『TEMPESTER』!!!」
火蓋が切って落とされたと同時に斐川が笑うように吼え、ものすごい速さでに走り出してくる。 およそ10m程あったはずの距離を葉月が身構える前に詰められ、繰り出されたのは左フック。 単純ではあるが当たればモチロン大きな隙が出来る。
葉月はほぼ反射的に身を屈めて避けたが、そうした矢先、胸部に彼の膝が豪打した。 中学生一年生の力なので骨折することはないが、肋骨がギシギシと響き、息が詰まる。 葉月がよろめいたその隙を狙って、斐川は葉月のこめかみ思いっきり蹴り飛ばした。
葉月の体がまんま蹴られたサッカーボールのように飛び、何回かバウンドしてやっと止まる。 これまでの時間は僅か7秒。
あまりにもの早業の連発に、観客のざわめきも消える。 ざわめきが消えるのとほぼ同時に葉月は蹴られて腫れたこめかみを押さえながら立ち上がった。
(なんだよアイツ……化け物かよ……)
単純にそう思った。 これまでの動きと葉月を蹴った時の力。 中学生の力とは思えないほどのものだったが、魔術による肉体改造をした魔力も感じられなかった。
つまり、先ほどまでの動きは全て彼が素でやっていた事になる。 魔術での決闘とは言っているが、当たり前のように肉弾戦で勝負を挑んでくる奴もいるのだ。
それに関しては二者に分かれる。 前者はあの神無のように魔術による一時的な肉体改造を施して、人間ではありえない動きで格闘する人間。 後者はこの斐川のように、魔術の才能が乏しいので体術でカバーする人間。 魔術の決闘で肉弾戦を好む物は7割ほどが後者だ。
しかし、そういう場合の人間は並大抵の努力をしていない。 それは今自分を満足げに眺めているアイツも同じなのだろう。 でなければ同学年の葉月を圧倒することなど出来ない。
篠原葉月は喧嘩が弱いわけではなかった。 一対一ならほとんど勝てるし、二対一でも負けることはない。 そのくらいの実力は持っていた。
葉月は心の中で前言撤回した。 斐川は自分に才能がないのが理由でひねくれていたのではない。 自分に才能がないのを自覚し、それでも才能がある奴に負けないようにと努力をし、しかし、儚い夢であったかのように負けていった。 そういう人間なのだろう。
(くそ……)
葉月は全身に力を込めて立ち上がった。 そして、まっすぐに少年の顔を顔を見る。 そして、疑問と共に驚いてしまった。
(……なんで……『悲しい顔してるんだ』…………?)
視界に映る緑髪の少年の顔は笑顔一色に染まっている。 だが葉月には解る。 解ってしまう。 それは自信の虚空を表しているのだと。 おそらく今彼は満たされているのだろう。 自分を叩けのめせている事に。 だけど、今彼の心を満たされるのはあくまで優越感。
金持ちが駅周辺で横たわっているホームレスを見下すような醜い感情。 そんなものでは彼の心を本当に満たすことは出来ない。 満たせるわけがない。
おそらく彼が本当に求めているのは。 可能性。 努力すれば栄光を掴められるという、道理の様な絶対とは違う、可能性。
最初からそれを探していたのだろう。 だからこそ、彼は葉月に勝負を挑んできた。 だったら、そんな彼に対して葉月が出来ることは
(全身全霊でアイツの可能性に応えること!)
お久しぶりです! 試験中だったので続きが書けず、こんなに遅れてしまいました。 申し訳ございません(そもそも、待っていたかたがいたのかどうかはこの際捨てておきます)
今回とうとう魔法でのバトルが始まったということでバトルの描写という物の難しさを実感しました。
本当に難しいです。 ただせさえ下手なのにさらに下手に見えてしょうがないです(笑泣
さて、ではでは、今回はこの辺で、アドバイスやご感想をお待ちしております!
現在、ボイスブログをやっております。
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