第二:金色の氷 part3
葉月は愛海と共に寮に戻った後、すぐさまリビングのソファに体を預け、金髪の少年に貰った紙をロングコートのポケットから出し、それを何秒間か睨みながら考えていた。
(なんて送ればいいんだろう…………)
「こんにちわ」なんて送るのはどう考えてもおかしいし、ひどく坦々とした彼の性格を考えると、返事はこないと思った。
「好きなものは何?」なんて送ったら。 「別に」という曖昧にも程がある答えが返ってきそうだ。 「友達になろう」って言うのは何となく嫌だし、義理もない。
「好きです」って言うのは論外ことこの上ない。 後ろの二つはまず思ってすらいない。 ではどうするかと自分らしくないことを本気で考えてみる。
そもそも他人との会話すらあまり慣れていない彼は、一言で済ますことがいけないことに、まったく気付いていない。
そんな風に悩んでいる葉月を、愛海がジトーっとした目で見ていた。 ああ、不機嫌だよこの人と適当に解釈する。 そういえば闘技場にいたときもこんな顔をしていた。
「なにその顔、ブスになってるよ」
「女の子に向かってそういう言葉は禁句!」
愛海は自分が今まで座席として使っていた座布団を思いっきり投げてきた。 およそ120kは出していたであろうそれは、しかし、葉月の左手によっていとも簡単に受け止められる。
「ハイハイ……。 それで、どうしたの?」
座布団を適当なところへ放り投げてから言うとそう言うと何故か愛海は口ごもり、モジモジしながら俯いた。
本当になんなんだうと、葉月はイライラするが、とりあえず、待ってみる。 数十秒立ってやっと愛海の口が動いた。
「えっと、葉月は……えっと……その………」
「?」
「……さっきの子が気になるの?」
「………………」
葉月は返答に困った。 正直、気にならないといえば嘘になる。 あの少年の存在は葉月に恐怖という感覚を思い出させたのだから。 愛海は怯えながら葉月を上目遣いで見つめている。 もしかしたら、あの少年のことが気になるのは愛海の方なのではないのだろうか?
あの時、愛海は怯えていた。 猛禽類ににらまれた小動物、蛇に睨まれた蛙という感覚以上に、葉月と同様、信じがたいものを見てしまった子供のようだった。
愛海が一瞬だけ顔を上げてこちらを見た。 しかし、一瞬だけ驚いた顔をしてすぐに俯いてしまう。 葉月は、いつの間にか自分が彼女を睨んでいたことに気付いた。
葉月はゆっくりと眉間の力を抜き、何か言いたそうな愛海の顔をじっと見る。 愛海は俯きながら上目遣いで葉月を見て、指をモジモジと絡ませている。
「あのさ、どうしたの?」
愛海は、ひゃうっと変な悲鳴を出しながらは肩を震わせ、自分の頬を真っ赤に染めた。 何かやり辛い………。
「あ、あ、あ、あの……私でよければ、メール作ってあげようか?」
「は?」
愛海の言葉は嬉しいが、少し不安だった。
(相手は男だぞ? ……あんまり当てに出来ないけど……)
しかし、自分がやろうとしても、どうしようかが解らないので、とりあえず愛海に携帯を渡してみた。 随分と嬉しそうな顔をして受け取った愛海がやたらと楽しそうにメールの文章をうっている。
何故だろう。 こいつのこういう顔を見ていると、なんだかすこしだけ、本当に少しだけだけど、心が落ち着く。
「できたよ」
「え? あ、うん……」
何故か少しだけ戸惑ってしまったのを、葉月は頭の中で後悔しながら携帯を受けとった。 表情が緩んでいなかったか、しょうもない心配もしてしまう。
愛海に作ったメールの文章は『名前なんていうの? さっき聞けなかったから、教えてくれない? こんなこと言うのは嫌だけど、とりあえずよろしく』とかいてあった。
意外とまともに、おまけにどことなく自分らしく作られたメールの文章を見て、葉月は失礼ながらも呆気にとられる。
「ど、どうも……」
「ううん、いいの。 私がやりたかっただけだから」
何故かまた頬を紅潮させる愛海を見て、葉月は妙な気分になった。 何故コイツは自分のことを思ってくれるのだろう?
拒絶したこともあったし、大嫌いと思いっきり言い聞かせたこともあったのに、愛海はそれら全てを受け止め、ごめんねと自分から謝り、葉月の機嫌を取り戻す。
正直、自分に対してそんなことができる奴は、自分の知っている中ではコイツしかいない。 ていうか、そんな変わり者、コイツ以外いるわけ無い。
そんな優しい心を持っている奴は、自分の知っている中では愛海しかいない。 本当に何でだろう。 ほっといてくれていても、別に傷付かないのに。
そう思うと、余計に解らなくなった。 意図は読める。 自分に喜んで欲しいのだろうと。 でも何のために? そんなことをして何の得になるのだろうか。 本当に解らなかった。
でも…………少しだけ、少しだけだけど、嬉しかった。
「愛海……」
「なに?」
名前を呼ぶのと同時に少しだけ自分の顔の筋肉が緩んでいたのがわかると、一回だけ咳払いをし、表情を整えてから愛海を見た。
少しだけ熱くなった頬が、緊張してぎこちない表情をしていると、知らせている。 口を開いた瞬間をが泳いでしまった事はもうどうしようもない。 なんだか、顔を合わせることが難しく感じる。
「……ありがとう」
愛海は葉月の珍しい謝礼を聞くと同時に表情をぱあっと明るくし、「うん!」と言って勢いよく抱きついてきた。
自分の首下辺りに、妙にやわらかい物が当たり、さらに頬に頬ずりしてきたので拒絶反応が出かけたが、まぁ今くらいは良いだろうと思い、ソファに体を預けたまま、体の力を抜いて天井を見上げた。
そして、誰にも悟られないように、小さく笑った。
愛海が作ったメールを送ってから約一時間がたった。 右手首の腕時計を見てみると、針は7時半を指していた。
返事は未だになし。 葉月に夕食を作らせ、その7割強を食べた愛海は現在入浴中だ。
やっぱり、よろしくってつけたのがいけなかったのだろうか。 それとも名前を聞くことがまずかったのだろうか。
そんなことを少し真剣に考えていると、不意に葉月の携帯が優しい音色の着信音を鳴らした。
急いで携帯の画面を見てみるとメールが一件。 チェックしてみると、やはりあの金髪の少年からだった。
「…………」
驚きのあまり言葉も出ず、固唾を呑み、何故か浮き出た額の汗を軽く拭う。 携帯の決定ボタンを押し、内容を確認してみた。
「……何だよコレは……」
メールの内容を見た瞬間。 葉月の全身の力が抜け、ソファの上を力なく滑り落ちた。
内容はあまりにも単純、というより飾り気がなかった。 メールの文章には『光崎神無』としか書かれてなかった。
おそらくそれがあの金髪の少年の名前なのだろう。 葉月は小首を捻ってしばらくそのメールを凝視した。 何十秒か経ち、
「ま、名前だけでもわかっただけ大漁か……」
おそらく、これ以上メール送っても返事は返ってこないだろうと、葉月は悟った。
「そっか…………『光崎神無』か…………」
そう呟いてから、携帯電話を閉じ、今はもう着ていない窓際のハンガーにかけてあるロングコートのポケットの中に入れた。
一度だけ窓の向こうに写る少し曇った夜空を見たとき、体の力が抜け、フラッと体が揺れた。 眠い……。 部屋に戻って寝よう。
(アイツはいったいなんなんだろう。 今になっても、不思議な感覚が残っている…………)
それは、恐怖でも驚愕でもない。 そうは解っているけど、答えが出せないそんな感覚。
おそらく、意識しなくても脳裏に焼きついた彼の姿はこれからずっと忘れることはないだろう。 それぐらい、葉月にとって意味のある存在だと思うから。
はい、望くんです! ええ、大変遅れてしまいました。 高校生はね色々とね大変なの。 なんて言い訳はしません! 本当にごめんなさい! 色々と考えていたら結構難しかったり、矛盾点が出ちゃったりで、もう大変!小説の難しさを実感したつい最近。
えっと、やっぱりまだまだこういうのは慣れていない俺。 できれば出よいので、感想やアドバイスをよろしくお願いします!
現在、ボイスブログをやっております。
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