第六:無敵VS無双 Part3
時間はわずかに戻る。
未だに葉月に叱咤する斐川を何とか落ち着かせ、とりあえず二人の入場を待つことになった。 ちなみに席順は通路側から、真理、葉月、斐川、夕凪、美久、愛海という形になっている。
最初は美久と愛海(プラス会長様一名)が、「私が葉月の隣なの!!」と言い張ってとまらないので、二人には離れてもらった。 まぁ、恐らく片方だけでも鬱陶しそうなので、これはこれで良かったのかもしれない。
ちなみに、真理が隣になったのは、彼女曰く「会長権限ね♪」らしい。 この学校の委員会長は双方とも変えるべきではなかろうか?
「来たよ」
夕凪がそうつぶやくのと、観客の歓声が爆発のように響き渡るのは、ほぼ同時だった。
あまりにものうるささに思わず葉月は思わず片目を瞑って耳をふさぐ。 うるさいのはよく体験しているはずなのだが、自分の性格上、こういうのは慣れない。
それでも目線は、下の、学園最強を名乗ることが許された二人の魔術師が踏み入れた舞台だった。
これか行われる試合は、決闘を超えて小規模の戦争となるだろう。 その位のものなのだ、LEVEL7とは。 そんなものから、目線をはずせるものなど、少なくともこの学園にはいないだろう。 葉月自身がそうであるように。
当の本人たちは、魔法名を互いに送り、何か話し合いをしているように見えた。 何の話なのかは、こちらからでは解らない。
「彼らのことは考えないほうがいい」
「え?」
不意に、斐川の隣の夕凪にそういわれた。 思わず葉月は斐川越しに夕凪を見る。
彼はこちらを見てはいない。 彼もまた、戸塚雪奈と吉良黄泉乃の戦いの舞台をじっと見つめていた。 しかし彼の言葉は、明らかに葉月に向けられていたものだった。 夕凪は続ける。
「確かに今回の彼らの試合は、会長に代わって、君を自分の組織に入れることが目的だ。 しかし、だからと言って、君が彼らに干渉する必要はどこにもない。 権利もない。 そして僕にも、その権利はない」
「………………」
初めて会った時から一度も見なかった真剣な表情で語る夕凪に、葉月は返答をしなかった。 出来なかったのはない。 本当にしなかったのだ。
理由はほぼいつもどおり。 必要はないと思ったから。
自分が、どちらかの委員会に入るのは、校長にとられた、古本(彼は破掟禁書と言っていた)を取り戻すためだ。 彼と親しくなるためじゃない。
(ま、気にはなってるけどね…………)
高等部一年でLEVEL7となった鬼才二名の過去。 知りたくないと言う人間はいないだろう。 だが、委員会の会長様が深入りするなと言うのだ。 それに従わないわけにもいかないだろう。
そこで、決闘は始まる。
下の舞台に立つ二人の背中に、異様なものが生えてきた。
それは翼。
しかし、向かい合う二人の翼はそれぞれまったくの逆の意味を持つものだった。
雪奈の背に生える翼はまるで、蝙蝠、ドラゴン、悪魔。 その全てに共通する、グライダーのような被膜を持った、巨大な二枚の氷の翼。 まさに、無敵の翼と呼ぶにふさわしいものだ。
それに対し、吉良の背に生える二対の翼は、上部の一対が白鳥、ペガサス、天使などに共通する神秘的な輝きを見せる純白の羽毛を持つ翼。 下部の一対が、鴉、天狗、堕天使、それら全てを思わせる漆黒の羽毛を持つ翼。 合計四枚の、無双の翼だ。
会場にどよめきの声が上がる。 葉月も、内心舌を巻いていた。
見たことも無い魔術だった。 それどころか、聞いた事もなかった。 あんなもの破掟禁書にも書いてはいなかった。
「な、なんですかあれ!! 夕凪さん!!」
「自分らしくない」なんて気にすることもせずに声を上げて夕凪に聞いた。 夕凪以外のメンバーが全員驚いた顔をしたが、葉月はそれには気付かなかった。
夕凪は掛けている眼鏡のブリッジを中指で軽く押し上げて、薄く微笑む。
「『あれ』は、彼らのオリジナルの魔術だ」
「オリジナル……!?」
夕凪のあっさりした言葉に、葉月は愕然とした。 他の面子も同じような反応だった(会長様方を除く)。 『オリジナル』なんて、そんなあっさり言えるほど簡単なものじゃない。
オリジナルと言うのは、一般的に見られるアレンジとは全く違う。 オリジナルと言うのは最初の魔術の属性、魔術構成式、魔力の練り方など、それら全てを自分で考えなければならない。
そして、それが法則に基づいているかどうかも問題になる。 基づいていなければ、やはり魔力が体内で暴走し、体に悪影響が起こるのだ。
そんなことが簡単にできる。 ここまで出の葉月の感想は、
(どんだけ化け物なんだ…………)
これにつきた。 正直な感想だ。 まだ試合が始まっていないと言うのに、ここまで心が躍っている。 見たい、早くみたい。 そんな感情が、心の中で暴れている。 もともと、校長の葉に聞かされていたころから、一度は見てみたいと思っていたのだ。 篠原葉月と言う人間がそれほど感情が高ぶらせるのも、無理はない。
そんな心のせいで、唇がわずかにつりあがっているのに、手は震えているのに、果たして彼は気付いているのだろうか。 おそらく気付いていないだろう。 なんせ、未知の世界とも言えるものが、これから始まるのだから。
そう、試合はもう始まる。 この際、もはやどちらが勝者でも、自分がどちらの組織に入るのなんて、葉月は気にしなかった。
学園最強同士がぶつかる。 それが見れればもはや十分だった。
そして今、二種の翼が羽ばたいた。
二人が上空へと舞い、先手を打ったのは雪奈だった。 彼は指を鳴らすことで一瞬にして自分の目の前の一定の空間を氷結させ、さらに氷柱へと変換させて放つ。
吉良はそれを旋回して避けると同時に両掌を合わせ、風の刃を10つ放った。 雪奈は再び指を鳴らし、円形の氷の盾を何枚も生む。 層の様に重なった盾は、空中で刃と何度も何度も相殺した。
直後、雪奈は上昇し吉良の真上を取り、拳を突き出すような動作と共に指を鳴らし、巨大な氷柱を放つが、吉良は再び両手を合わせ、同じくらい巨大な風の刃で、氷柱を真っ二つにする。
しかし、雪奈はそれを利用し、氷柱を無数の弾丸へと変換し、吉良へと再び放つ。
「お前の得意分野は氷系の魔術だ」
それに対し吉良は、その無数の氷の弾丸を、風の刃を風へと変換させる事で弾きながら語る。
「そして俺の得意分野は風系統の魔術。 別に相性が良い訳じゃねぇが、悪くもない」
だがな。 と吉良は続ける。
「俺の得意分野は風だけじゃねぇぜ!!」
叫ぶと同時に、吉良が、パン! と再び両掌を合わせる。 すると、彼の前に光る何かが現れた。 それは、一秒もしないで砲丸くらいの大きさになると、音速を超える速度で雪奈めがけて放たれた。
「っ!」
放たれたそれの正体は、『真空電子』。 空気を圧縮することで熱を持たせ、原子を陽イオンと電子へと分解させたものだ。 雪奈は右に旋回してそれを回避する。 彼が今までいたところに電子の尾が引かれていた。
「っ……!」
雪奈が指を鳴らすことで放たれた無数の氷柱は、しかし、吉良の生み出した竜巻にクッキーのように簡単に砕かされる。
ならばと、再び指を鳴らし、闘技場の地面を凍らせると、同時にそこから、巨大な霜柱が天を貫かんという勢いで突き出てきた。 それは竜巻を貫通し、それの後ろにいた吉良の翼の一枚を粉砕させた。
しかしそんなものは、彼が魔力を練れば、空中で体制を崩す前にほぼ一瞬で再生してしまう。
「ヌリィよ、戸塚ぁ!!」
パン! と両掌を勢いよく合わせると、目に見えるほどの濃度の高い風の刃が、彼の右手に螺旋状に集まる。 キーン! という金切り声を上げるそれは、確実に雪奈の体を抉り、削り、引き裂く凶器だ。 翼を羽ばたかせ、凄まじい速度で雪奈に肉薄すると、それを彼の体へ叩き込む。 雪奈はそれを身を逸らして避けるが、吉良の攻撃は終わらない。 吉良は螺旋の刃を何度も何度も繰り出してくる。
雪奈は吉良の攻撃をかわすと同時に、指を鳴らし、丸い氷の盾を生み出した。 しかし、次に来た追撃をそれで防ぐものの、螺旋の刃は、盾の内側から爆発のような勢いで破裂した。
「くっ……!」
「ちぃ……!」
衝撃により、二人とも弾き飛ばされるが、お互いに翼を羽ばたかせ、すぐに体制を整えると、雪奈は氷柱を、吉良はプラズマを牽制として放つ。 二人の間でそれらが交差し、雪奈と吉良はそれらを回避するため、同時に上昇する。 二人が放った魔力の塊は、今まで彼らのいた場所を通過し、魔力の障壁にぶつかると一瞬で消滅した。
「おらぁ!!」
いつの間にか接近していた吉良が、翼を上手く動かしながら身を捻って蹴りを繰り出し、雪奈は腕をクロスしてそれを受け止める。 逆の足で繰り出された蹴りも上手く交わすと、その脚目掛けカウンターの要領で蹴り、弾いた。
そのせいで吉良が体制を崩すのとほぼ同時に指を鳴らし、刹那、自分の左腕が氷に包まれる。 それは氷のガントレットとして彼の腕を覆い、まさにメビウスの拳となって吉良の体を捉える。
「っ! ぐっ……ほぁ……」
「………………」
呻きながらそのまま落下するしかない吉良は、ドガァ! と、強い音を立てながら床に倒れた。 翼も力なく倒れ、彼の体を掛け布団のように包む形になる。
「ぐ……おぉ……」
力を込めて立ち上がる吉良に、雪奈はしかし、容赦しない。 指を鳴らし、吉良の両手を氷で覆い、地面に張り付かせたのだ。
「なに!?」
「詠唱破棄は絶妙なタイミングがなければ行えない。 お前が『両掌を合わせた音と僅かな痛覚』でタイミングを図り発動していたことは知っているからな。 有効な手段だろう?」
「てめぇ…………」
そして雪奈は、両手の指を鳴らし、剣山の様な氷山を生み出す。 正面にズラリと並ぶそれら全ては、人体など易々と貫くだろう。 棘だらけの氷山はあまりに巨大で、回避することは不可能だと誰でも解る。 吉良は歯噛みし、雪奈はただ宣言する。
「終わりだ……吉良!」
途端、まるで支えの無くなったシャンデリアの様に氷山が落下する。
そして、その落ちてくる氷山を、吉良は笑いながら待ち受けていた。
「なにがかな、トォヅカク〜ン?」
ダァン! という、強い音が響く。 それは、吉良が足で床を強く踏んだ音だった。 瞬間、彼の魔力が轟!! と、彼を中心に爆風のように広がる。
「なに……!?」
「こういうやり方もあるんだよ!」
突如、二本の竜巻が氷山を柱のように支え、次の瞬間、氷山を粉々に砕いた。 同時に竜巻も強力な風へと変換され、雪奈を吹き飛ばし、魔術の施された壁に激突させる。
そして、吉良は歌う。
「炎よ揺らめけ。 姿は灯火。 数は四。 冷気に打ち勝つ糧となれ」
小さな、ライターの火より少し大きいくらいの火が四つ。 それらはまるで、磁石にひきつけらるように、主の両手を縛る氷へと集まると、氷の表面だけを溶かし、吉良の両手を解放した。
吉良は具合を確かめるように手首を回す。 手のちょっとした違和感に気付くと、彼は嫌な顔をした。
「もう一歩で霜焼だったぞ…………。 ったく、やっぱLEVEL7同士の試合なんて、やるもんじゃねぇな」
めんどくさそうに言いながら背筋を伸ばす。 すると、彼は上空に居る雪奈を見つめ、笑う。 それは、挑発的にも、挑戦的にも見えた。
おそらく、相手も同じなのではないかと、吉良は予測する。 お互いの体は武者震いし、心は昂り、血は滾り、神経は研ぎ澄まされている、と。 そして吉良は、白と黒の四枚の翼を羽ばたかせ、宿敵のいる宙へと舞い上がった。
雪奈と目が合うと、吉良は手を合わせて唸りを上げる螺旋の風の刃を手に。 吉良と目が合うと、雪奈は指を鳴らして籠手の様に肘から下を覆う、巨大な氷の爪を形成した。
しかし、二人は動かない。 まだその時ではない。
「戸塚…………」
「あぁ…………」
突如、ピシィ! という音がした。 それは、先程雪奈が出した霜柱にヒビが生える音だった。
そして、そのゴングに、二種の最強が再び交差する。
「「第二ラウンドだ!!」」
ちょっと(?)今回は更新が遅くなりました。ごめんなさい。だけど、その分今回は内容を多めにしました。
さて、今回はとうとう始まった、雪奈と吉良の戦闘。
学園最強同士の戦い、できるだけ派手にやろうと頑張ったのですが、うまく表現できているでしょうか?そこら辺の感想はぜひ欲しいです。
では、今回は話せる内容があまり無いのでこの辺で。
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