第六:無敵VS無双 Part1
2067年7月19日
昨日夕凪孤鉈が行っていたとおり、午後に試合が始まるそうなので、昼を食べ終えてから闘技場に来てみると、いきなりの凄まじい光景に、一緒に来た、愛海、美久、斐川が、驚き、同時に身を引くのが解った。 葉月も、顔には出していないが、内心、とても驚いている。
「うわ〜……すごいねぇ〜」
愛海が呑気な声を上げ、
「すごぉ〜い…………」
美久は素っ頓狂な声を上げ、
「まるで祭りだな」
斐川はあくまで冷静に客観的結論を出す。 しかし、実際彼も驚いているのだろう。 実は、葉月も、顔には出していないが、内心、とても驚いている。
(本当に、なんだこれは…………)
闘技場には、凄まじい数の生徒が押し寄せていた。 本来、闘技場は1000人以上の生徒を収められるが、それにもかかわらず、闘技場は中等部1年生から高等部3年生までの生徒で満員だった。 自分と斐川の試合の時だって、ここまでではなかった。 そしてよく見ると、中には教師も混じっていたりする。
「や。 今来たのかい?」
驚きっぱなしの四人に、そう、気さくに声をかけてきたのは、生徒委員会会長、夕凪孤鉈だった。 昨日と変わらぬ、黒一色に統一された上下の服の上に医者のような白衣を着ている。
とりあえず、そうだと葉月が頷くと、夕凪はニコニコと笑ったまま葉月の連れてきた面子を、愛海、美久、斐川の順に見回す。
「お友達かい? 初めまして。 僕は、生徒委員会の会長をやっている、夕凪孤鉈と言うものだ」
これまた昨日と変わらぬ、あくまで紳士に、礼儀よく頭を下げながら、彼らに自己紹介する。 生徒会長相手にどう対応しても良いのか解らないのか、三人とも、新人サラリーマンのように「あ、ども」と、会釈し返す。
「この観客の多さはなんなんですか?」
そう聞き出したのは斐川だった。 やはり、相手が生徒会長となると彼でも緊張するのか、かすかに声が上ずっている気もする。 夕凪孤鉈は「おや?」と、意外そうな顔をした。
「知らなかったのかい? まぁ、いい。 こっちへおいで。 君達の席は最前列に用意してあるんだ。 会長権限でね」
どうやら、この凄まじい人数の中でも自分達の席を取っておいてくれたみたいだ。 最後の言葉が若干気にもなったが、とりあえず葉月たちは、微笑みながら最前列の席へと続く階段を降りていく夕凪に、警戒心も無くついていく。
観客たちに挟まれた段数の意外に多い階段を降りきり、なぜか自分以外に誰が来るなんて言っていなかったのに現在の人数とちょうどの数の最前列の席の一つには、風紀委員会の会長、神錠真理が、腕と脚を組みながら不機嫌そうな顔で待っていた。
「あ、真理さん……」
「!? 篠原く〜ん♪」
しかし、葉月の顔を見た瞬間、魚に食いかかる猫のような顔をして葉月に抱きついた。 身長差のせいか、彼女の豊かな胸が葉月の顔面を覆い、彼に呼吸をさせなくする。
「待ってたのよ〜♪ 私のお気に入りのペットになるであろう君の事を〜♪」
(〜!?)
ギュ〜ッ! と抱きしめる力を強くする真理。 そのせいで葉月の顔がさらに彼女の胸に埋まってしまう。 一生懸命彼女から離れようとしている葉月だが、彼女の腕力はハンパじゃなく、全く離れることが出来ない。 あれ? なんかデジャヴ。
「「ちょ、ちょっと!! 私の葉月に何するんですか!!」」
後ろから見事にハモッた二人の少女の声が聞こえた。 そして自分の背中に誰かの手が当たったような感触がした。 おそらく、愛海と美久が自分から真理を引き剥がそうと、彼女の腕を引っ張っているのだろう。
「ちょっと、なによあなた達!?」
「そっちこそ! 葉月を離してくださいよ!!」
「そうです〜! 葉月から離れてください〜!!」
「嫌よって何このおチビメッチャ力強い!?」
美久の馬鹿力が幸いし、真理腕が僅かに葉月からはなれたところで、葉月は真理の暑い抱擁から抜け出した。
昨日よりは開放された時間が早かったので、葉月は昨日以上のダメージは受けなかった。 ……なのに、心の奥で何かの寂しさが残っているのは何故だろう。
「いきなり挨拶も無しに相手に抱きつくのは、無作法だと思わないかい? 神錠」
眼鏡の奥の瞳を光らせながら、夕凪が呟く。 真理がムッとした表情で彼を睨んだ。
「悪かったわね。 ていうか、私聞いてないわよ? 篠原君以外にくる子がいるなんて」
「そりゃ、言う気も無かったからな」
「あんたねぇ…………」
神錠が肩を震わせている。 もしかして、二人は仲が悪いのだろうか?
如月学園の生徒委員会と風紀委員会は自身の成績向上のため、仕事を取り合っている中なので、互いの組織同士は仲良くないとは知っていたが、個人でここまで仲が悪いとは知らなかった。
すると、口喧嘩中に悪いかもしれないと思ったのか、遠慮しがちな態度で、斐川が「あの〜……」と、二人に話しかけた。 斐川の呼びかけに、会長二人が、「ん?」と、仲良く首をかしげながら斐川のほうを向く。
「さっきも聞いたんですけど、今日俺たち、篠原が闘技場に行くって言ってたから、珍しいと思って着いて来たんです。 そして来た結果がこの人数……いったい何があるんですか?」
この質問に、風紀委員会会長「おや?」と意外そうな顔をし、夕凪弧鉈は「あぁ、そうだったね」と、左の掌を右の握り拳で軽く叩いた。
「篠原君。 吉良君と雪奈のこと、言わなかったのかい?」
「……えぇ……言っていません」
そう。 実は葉月は、斐川達に今回の試合の内容は話していない。 言わなかった理由は、単に聞かれなかったからなのだが、今ここで、「言っておけば良かったかな」なんて当たり前なことをちょっとだけ考えてしまう。 でもまぁ、夕凪が説明してくれるみたいなので、気にすることはないだろう。
「ふむ……まぁ、良いだろう。 えっと、斐川君だったよね? このギャラリーの多さだけどね。 理由は、我が如月学園でも三人しかいないLEVEL7である、風紀委員会副会長の吉良黄泉乃君と、生徒委員会の副会長である戸塚雪奈の試合だからなんだよ」
彼の言葉に、葉月以外の全員が「うえ!?」「ふぇ!?」「んな!?」とそれぞれが驚きの声を上げた。 良いリアクションだ。
斐川が葉月に食って掛かる。
「おい篠原! LEVEL7なんて聞いてもいないぞ!?」
「まあ、言ってないからな」
「そうじゃないだろ!」
「まぁ、とりあえず落ち着きなよ。 ほら、そろそろ始まるから」
夕凪にそういわれて、斐川はハッとし、葉月は右手首につけた腕時計を見る。 時刻はそろそろ午後1時へと回る。 まさに、決闘開始へのカウントダウンだった。
随分と間が空いてしまいました。ごめんなさい。
アレなんですよね〜。大事な部分とかは早くすむのですが、どうでもいい(細かい描写とか)がなかなか埋まらなくて苦戦します。実は、メモの方ではこの話(第六の内容)は半分くらいは出来上がっているのですが、中埋めが辛くてなかなか進みません。そういうのってどうしたら良いんでしょうかね?
実は結構前になりますが、この「呪をもらって魔法学園生活!!」が観覧数10万を超えました!(現在は12万超)
これも、いつも(かどうかは知らんが)この作品をご覧になられている皆様のおかげです!本当にありがとうございました!また、ずうずうしいですが、これからもよろしくお願いします!
次の投稿はいつもよりは早めに投稿出来そうです。少々お待ちを。
では今回はこの辺で。
皆様の、感想、評価、アドバイスなどをお待ちしております!
現在、ボイスブログをやっております。
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