第五:対なる二つの組織 Part2
「心配する必要はなかったか…………」
自分の寮のリビングにおいてあるソファに寝転びながら成績表を眺めている葉月は呆れ半分にそうつぶやく。
そう、今考えてみれば、LEVEL4の自分並の魔法を出せるものなど、一年生の中にいるはずがなかったのだ。 そもそもこの学園の一年生は10分の9がLEVEL1だ。 LEVEL2出すらほとんどいないと言うのだから、葉月のようなLEVEL4なんているわけがない。
(アホらし…………)
葉月はソファからゆっくりと立ち上がり、軽く肩をならしながら、夕飯でも作るかと台所へと向かう。
冷蔵庫の中身を確認し、「あぁ、やっぱり今日は残り物の詰合わせだな」と呆れ半分に呟きながらそう決める。 そして、食材を取ろうとしたところで、ふと、一つの疑問が頭に浮かんだ。
(一位は誰なんだ…………?)
そう。 葉月の成績順位は二位。 つまり一位がいるはずなのだが、如月学園では成績は個人のみの発表となっているため、誰が一位なのかは本人か、その人間と同室の人間以外は殆んどいない。
一位はどんな奴なのだろうと葉月は考える。 計算上、筆記では一位。 少なくとも二位と言うことになる。 実技でも三位以内に入らなければ、学年一位にはならない。
そこまで考えていると、ピンポーン! と軽快な呼び出しフォンが鳴った。
「? こんな時間に……誰だ?」
訝しげに首を傾げながら冷蔵庫の戸を閉めてから玄関へ小走りに向かう。 愛海の靴を(わざと)踏みながら玄関のドアを開けると、そこには見たことのない、高等部の生徒と思しき少年が立っていた。
「や♪」
葉月と目が合うと同時に、右手を上げて愛想の良い笑顔を見せる。
その少年は、ボブカットにした茶色い髪と、濃い緑の瞳が印象的だった。 顔立ちは、やや幼さを残すも、整っていて、黒いアンダーウェアの上に緑色のフードつき半袖ジャケットを着、首には首輪の様なチョーカーをつけていた。
「…………どなたでしょうか?」
明らか上級生の生徒に対してはさすがに篠原葉月という人間も敬語になるが、尋ね方から解るように、彼は警戒心を持ち始めている。
対して少年は笑顔のまま
「初めまして篠原葉月くん。 俺は風紀委員会の副会長をやっている、高等部一年の吉良黄泉乃だ」
そう自己紹介する。 葉月は彼の一つの単語に着目した。
(風紀委員会の副会長…………!)
間違いなくそう言った。 しかし、もしかしたら嘘かもしれない。 もし嘘だとしても、明らかに彼に得はないが、いきなりそんなことを言われても現実味がない。
葉月は警戒心を解かなかった。
「……風紀委員会が僕に何の用でしょう?」
「オイオイ、そんな怖い顔すんなよ。 別になんかやったわけじゃないだろ? まぁ、連絡もなしにいきなり来たのは悪かった。 だが、ちゃんと用はあるんだ」
「その用とは?」
「あぁ」と息づく吉良。 何だか言い辛そうな顔をしてその顔を人差し指でポリポリと掻き始める。 ここで葉月は吉良が次に何を言うかを予想する。
「風紀委員会に来ないか?」
予想通り。 だが、念には念をと、葉月は一つの要求を言う。
「……僕が行くとして……あなたが風紀委員会の人間であるという証拠はありますか?」
「あ?」と、この要求に吉良は良い顔をしなかった。 当然だ。 もし彼がそうであれ、そうでなかれ、疑われたら誰だって良い顔はしないだろう。
吉良は「う〜ん」と唸り、考えるように指をラインの整った顎に乗せながら、天井を向く。 数秒後、何かが決まったのか、「よし!」と言って、懐から自分の生徒手帳を取り出し、「ほれ」と言って葉月に開いて見せた。 それには、彼の証明写真と、風紀委員会の象徴である、天使と悪魔の翼が交差するという盾の紋章が刻まれていた。
間違いない。 この証拠により、吉良黄泉乃というこの男は風紀委員会の人間であることは確定した。
「これで良いか?」
微笑みながら確認を葉月にとる吉良。 葉月は目線を生徒手帳から吉良へと変えて、頷いて答える。
「はい。 疑ってすいませんでした」
「いやいいさ。 風紀委員会の勲章忘れてきた俺が悪いんだし」
「勲章忘れてきてたのか」と言う静かな呆れを、葉月は内心で呟いた。 実は勲章なんてものがあるのを葉月は知らなかった。 正直、もし彼がそんな物を付けていたとしても疑っていたかもしれない。
「まぁ、とりあえず、君を誘いに来たってことだ。 君の成績。 始業式での活躍は、一年生ながらも風紀委員会にも通用するものだしな。 ……んで、来てくれるかい?」
「………………」
葉月は迷った。 確かに願っていた結果ではある。 躊躇う必要はないはずなのだが、ここまで事が上手く進んでいるとさすがにこれで良いのかとも思う。
「少し考えさせてもらっても良いでしょうか? いきなり過ぎて……考える時間が欲しいんです」
葉月の申し出に、吉良は悪い顔をしなかった。
「あぁ、いいぜ。 良い返事を期待している」
笑顔でそう言うと、吉良は去っていった。 エレベーターを使って降りていくところまで見送ると、葉月は玄関のドアを閉める。
「ど〜したの〜? お客さんだった?」
振り向くと、そこには全裸にタオル一枚の愛海がアイスキャンディーを咥えたまま、何の恥じらいも無く立っていた。 まだ全身が濡れていているのか、タオルが若干透けて、彼女の体がやや露になっている。
(恥を知らないのかこいつは…………)
吉良が部屋に入っくることがなくて良かったと心底思う。 自分に似た顔をした人物がこういう姿でいるのは、絶対見られたくない。
「服を着ろ、バカ」
「おや? 照れ隠しなのかな? お姉さんの裸に近い姿を見ての興奮を隠してツンツンしているのかな?」
「濡れた体で抱きつくな。 服が濡れる」
適当に愛海の体をどけて、忘れかけていた夕食の準備をしようと、冷蔵庫へと向かう。
「そういえば、今日のご飯何?」
「残り物の詰合せ」
「えぇ〜! やぁ〜だ〜!」という愛海の絶叫を、葉月は適当な食材を手にしながら、それを心地よく聞いていた。 篠原葉月という人間は、実はちょっとSだったりする。
お久しぶりです。 投稿のたびに久しぶりと言うのもどうかしてますね、ハイw
さて、今回記念すべき20部で新たなるキャラが登場しました! 名は吉良黄泉乃(変な名前w)。
実は、自分の中では結構気に入っているキャラだったりします。 優遇する気はないけどw
外見のモデルは電王の侑人。 設定のモデルは禁書目録の垣根帝督(ネタバレするわけじゃないから言いますした)。 両方とも大好きなキャラなのですw
では、やや早いけど、今回はこの辺で。
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