第二:金色の氷 part1
2067年4月10日
冷たい水で顔を洗うと表情がひきしまる。 普通はそうだが、意外とそれは個人さがある。
とある少年は今そうしたが、引き締まらない。 今もどこか眠たそうな表情だ。
「……はぁ……」
その表情を見た、少年は嫌気がさした様なため息をつく。 いや、正確には表情ではなく、自分の顔だ。 もっと正確に言えば、自分の双眸と髪だ。
ブルーベリーのような青紫色の髪と、炎。 というよりは、鮮血のような深みのある赤色の瞳。
もともと、この少年の髪と目は最初からこのような色だったわけではない。 しかし、染めたとか色を抜いたとか、カラーコンタクトをつけているとかでもなかった。
そう、これら『魔力式色素異常症候群(通称:COCS)』によるもの。
葉月の髪と目は、魔力によって変色する時期が遅かったため、彼は自分の元の髪と目の色を知っている。 だから、この髪と目の色が、これらを持っている自分が自分じゃないみたいで嫌いだった。 特に『この目』。 真っ赤(まっか)で|真っ紅(まっか)な真っ暁の目。
見た瞬間で人の血を連想させられるほど、この赤が澄んでいて、見るだけで吐き気がする。
(まぁ、もう慣れたけど……そういえば、何故魔力によって人間の色素、それも、髪や目のみに以上が出たのか、いまだに解明できていないんだっけね……)
どことなく感じた苛立ちを、かすかに鼻を鳴らすことで過ごし、リビングへと戻る。
リビングは、当然の如く廊下と同じフローリングの床。 そして縦長の、やや広いつくりとなっている。
(それにしても…………)
昨日のこと。
入学式の途中、正確には魔法名をもらった後、会場に突如現われた合成獣を目にしてからの記憶が、なぜかない。 気を失っていたと予測していいだろう。
その後、目が覚めたときは変に白いの天井が真っ先に目が入った。 次に鼻につく薬の臭い。 体を服越しに包む薄い掛け布団といやに硬いベッド。 プラス、体に痛みは無かったが、異常なほどの疲労感と脱力感が、しばらくの間、葉月をベッドに拘束していた。
保健室での出来事も、何かあった気はするが、それも朦朧としていてハッキリとはしない。 だが、確かあのときに校長が来て、
「今回は、僕の変わりにキメラを止めてくれてありがとうね。 ちょっと大事になったみたいだけど、まぁ教師以外の生徒の半分以上は『ホール内の教師の誰かがやった』って思ってるだろうから、そんな大きな噂ごとにはならないと思うよ。 君も含め、皆もらったばっかりの魔力と魔法名が体になじんでないだろうからね。 ……まぁ、それは置いておいて……そんな頑張った君には面白い物をプレゼントあげよう♪」
とか何とか言っていた気がするが……と、廊下とリビングの境界線の働きを持つドアを開け、ため息をつく。
この学園では男子寮、女子寮というものは無く、寮内でバラバラに男女別に分かれている。 これに対して、別にこれといった反論は無い。 例え同じ遼に女子がいたとしても、別に部屋の中で女子と一緒になるわけじゃないから。
一人一部屋じゃなくて、二人一部屋というのも、全然我慢できる。 面倒くさいところもあるだろうが、実質的には楽しいと思うから。
だが、目の前の悪夢はどうしても我慢が出来なかった。 文字通り、夢であるなら。 マジで覚めてくれと思うほど、本気で疑問と怒りを抱いてしまう。
『何故女子であるはずの愛海がこの部屋にいるんだ?』と。
あの時の葉の『面白いプレゼント』というのはこれのことだった。 本来なら、葉月と共にこの遼で学園生活をすごすはずだったルームメイト(名前……なんだったっけか……)は、たったこれだけのために他の部屋へ、葉月とは違うルームメイトと共に学園生活を過ごすこととなったと言うのか。
いやというか、いくら『面白いプレゼント』とはいえ、これはさすがに面白すぎじゃだろうか。 暗殺の計画を立てたいくらいに。
とりあえず、そんな気持ちなどを誤魔化すために、というか本当に夢でありますようにと願って、先ほど顔を洗っていたのが……全然ダメだ。 どうやら現実らしい。
時刻は午前十時二十二分。 本来は中学校舎にいるはずなのだが、今年入学した生徒は、この馬鹿広い学園の中を知るために、入学式後の二日間は休日となっている。 今思うと、休日が嫌な日だと思ったのはこれが初めてかもしれない。
いやそんなことよりも、どうにかしてこの姉を追い出せないかと考えてみるが、そんな不可能を可能に変える様な便利な魔法など無いと、すぐに諦めた。
それで、無自覚なことの発端、愛海は、葉月が寮に着たらじっくりと楽しもうと思っていた最新型家庭用ゲーム機「ゲームステーション4」で格闘ゲームを勝手にやっている。
先程愛海が、一緒にやろうよと誘ってきたが、丁重に(嘘だが)断らせていただいた。 理由は、愛海の格ゲーでの実力が、魔力のレベルで言うLEVEL10的に強いからだ。
出来れば思い出したくないが、随分前それが原因で泣かされた思い出もあるし、小学校5年生の頃、始めてやるタイプの格ゲーを1ゲームで攻略し、そのあと行われた同じ格ゲーの大会でストレート及びノーダメージで優勝したことという歴史を葉月は覚えている。
(人間一つは取り柄があるって言うけど、それがゲームって言うのはどうかと思うけど……)
まぁ、そういう理由も含め、寮の内での行動手段がなくなったので、どうしますかと心の中で自問してみると、外に出て学園見学をするという手段を心の中で自答した。
「愛海。 僕校内見て回るけど、良い?」
いつもなら勝手に行動するのだが、寮の中に二人だと、何となく許可を取った方がいい気がした(まぁ、取れなくても出て行くつもりだったが)。
「え? あ、ちょっと待って! 私も行く!」
「は? 今それやって……ってうわ、はや……。 上級者用のザコキャラでラスボス二十秒で倒したよ」
「さ、行こう! 行きたい所があるんだ」
「……………………」
唖然とする葉月の腕を半ば無理やり引っ張り、部屋を出て、エレベータを使って一番下まで降り、そのまま寮を出た。
何となくだけど、寮を出たときの風景がどうも住宅街に見える。 昨日の帰りの時も同じ感想を抱いていたが、今もそう思える。 葉月たちの寮の両隣に同じ学年の寮が幾つも並んでいるからだろうか。
この学園は普段の生活環境と似させるために、学園内は街を模したような造りとなっていると聞いた。 バチカン市国の4倍を超える面積を持つこの学園を良い方向に活用したやり方だと思える。
この案もやはりあのバカ校長が考えたらしい。 まぁ、バカなりに良い考えだとは思うが、そう考えると何となく眉間に皺が寄ってしまう。
「で、何所行きたいの?」
「決まってるじゃん♪ と・う・ぎ・じょ・う♪」
闘技場というのは、その名前の通り、この学園内の魔法使い同士が、学年関係無く、魔法で闘いあえる場所だ。
基本的にそこは、休み時間とかに生徒同士が覚えたばかりの魔法を試して戦ったり、実習で魔術の訓練をしたり、試験で生徒一人一人が現在どの程度の実力があるかを調べるために使われている。
「何でそんなところに?」
「面白そうだから。 ほかに理由いる?」
「いや………別に」
「じゃ、ホラ! そんな私をひくような目で見てないで、行こ♪」
再度無理やり引っ張られ、葉月は振り解こうと思ったが、情け無いことに愛海の腕力によって、それすらも適わなかった。
前回は一気に書いてしまって困ってしまいましたが、今回は一話を三つに区切ることにしました。
書いてて少し思うことは、『セリフが少なすぎ』なのでは? という結構問題的な部分なのですが、とりあえず、これからもっと改善して行くという事で、今回はこの辺で。
感想、アドバイスなどを心待ちにしております。
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