第四:小さな鬼と書いて許婚と読む!! part5
「またここか…………」
鉛のように重いまぶたをゆっくりと開けてみると、そこはすべてをほぼ真っ白に統一した空間。
葉月は小さく、だけどかなり重くため息を吐いた。 毎度おなじみと言うかなんと言うか……。 自分が今いるのは、保健室の患者用に設置された別室だった。
今度から自分に何かあったときはここで目を覚ますということを意識しておこう。
葉月は目だけ動かして辺りを見回してみる。 自分の目に映るのは、患者用ベッドならではのパイプの手すり。 壁のフックに掛けられている自分の黒のロングコート。 そして、見舞い人用に備えられたパイプイスに腰掛けている、360度どこから見ても幼い少年にしか見えない変人校長先生。
「何しに来てんだこの変人」
「それが君の人の顔を見た瞬間に発する第一声なの?」
葉月は心の中でため息をついた。 目覚めてすぐにこいつのお顔を拝見することになるとは……。 はっきり言うと、ついてない。
「で、君は何でここに連れてこられたのかな? いきなりあの小さい子が片手で君を運んできたのはビックリしたよ?」
葉は、葉月の明らかに残念そうにしている顔を見ながら、苦笑気味に言った。
葉の言葉を軽く変換してみるとつまり、自分は美久にここまで片手で運ばれてきたということになる。
確かに、外見はどう見ても小学2、3年生な美久が葉月を片手で運んでいるという光景はかなりシュールだろう。 そりゃさすがの葉でも驚くのは当然だ。 自分は慣れているが。
「見たことはできれば忘れてほしい。 で、僕がここに連れてこられた理由だが……正直自分でもよく解らない。 美久…………ちょっとした事情があって魔力を開放させたんだ。 そしたら、体の中が直火焼きされたような感じになって……気がついたらここにいた。 そんな感じだ」
正直に言うと、実は今でも炎のような熱さが電撃のように葉月の体の中を走っている。 しかし、表情には出さないように必死に誤魔化している。 篠原葉月はプライドの高い人間だ。 自分が苦しんでいる表情を誰にも見られたくはないのだ。
葉は葉月の説明を、目を閉じながら腕組みをして、所々合間に「うんうん」と頷いて、なんだか真面目なんだか不真面目なんだかよく解らないが、とりあえず最後まで聞いていた。 そして一息ついて
「ふむ……つまり君は、『自分の愛しの美久ちゃんが、僕の部屋に寝泊りしたと勝手に思い込んで勝手に嫉妬して勝手に魔力を開放したときに勝手に倒れた』。 ということだね?」
笑顔でそういってきやがった。 葉月はほぼ無意識に拳を握り締めていた。 こいつの言っている事は認めたくないが、たぶん間違っていない。
葉月は怒りとその他を含めた感情を必死に押し殺して葉の説明に耳を傾けた。 葉は葉月の様子には気づいていないようなそぶりで続ける。
「まぁつまりは、君がその嫉妬パワーで魔力を開放したと同時に、君の魔力がそれを経験地として認識してしまった結果、魔力が急増してしまったわけだ」
葉月は葉の説明の一部を無視して、寝起きのせいで、まだあまりエンジンの掛かっていない脳を必死に働かせる。
「…………つまり、僕の中の魔力があまりにも早く増量しすぎたせいで、僕のLEVELと僕の魔力が釣り合わなくなったってことか?」
頭の中で出した答えをそのまま出すと、葉は「そのとおり!」と言って、頭をブンブンと縦に振りまくった。
「さすが天才君だね。 話しやすくて助かるよ。 君の言うとおり、君の体内魔力が余りにも早く君のLEVELの許量以上に増量したせいで、LEVELから魔力がこぼれて、君の体に影響を及ぼしたんだね。
もともと魔力そのものは人間の体に有害だからね。 小さい器からもれた魔力は、人の体を蝕むんだよ。 現に、今も君は体中が痛いでしょう?」
「…………」
そっか。 と葉月は少し理解する。 こいつに誤魔化すことを自分なんかにできるはずがない。 変なプライドを持ち続けていたのでは、この激痛からは逃れられないのだ。
もはや誤魔化す意味を失った葉月は体の力を抜いて激痛が迸る感覚を無視するのではなく、必死に堪えながら、激痛から逃れる方法を知っている人間である葉を、その赤き眼で見据えた。
「教えてくれ、どうやったらこの痛みは消える?」
葉月はこの際プライドを捨てた。 早くこの痛みから逃れたいその一心で笑顔のままでいる葉に対して、必死に懇願した。 葉は葉月の様子を見て、ずいぶんと楽しそうに、すでに笑っている顔の笑みをさらに深くして、
「うん、わかった」
といって、即座に葉月の鳩尾を突き刺すように豪打した。
「っ!?」
葉月は鳩尾に感じた衝動と、こみ上げてくる吐き気を必死に抑えながら、上半身だけを起こしてほぼ無意識に葉の顔面を殴った。
しかし、葉月の拳には伝わった感触はあまりにも軽く、まるで風船を殴ったような感覚だった。 当の殴られた葉は、本当に風船のように、フワリと宙に浮かびながら葉月との距離を取っていた。 彼の顔に殴られたような痕は、モチロン無い。
葉月は殴られた部分を押さえながら、笑いながら浮いている葉をにらみつける。
「何すんだ……!」
「あははは♪ まぁまぁ、押さえて押さえて♪ 今のが治療だから」
「腹抱えながら笑っている奴の言う事なんか信じられるか!」
「んーじゃあ」と言って人差し指を自分の頬に添えながら葉はゆっくりと着陸する。 そして、その添えた指先を葉月に向けて、
「お体の調子はいかが?」
ニッコリとまるで本物の子供のように微笑んで葉月の様態を聞く。 そこで葉月は冷静になって気づいた。
体が痛くない。 炎のような体内温は平常になり、電撃のような痛みはスイッチをオフにしたかのように一瞬で完全に消えていた。
「……何をした……?」
「モチロン、君の器を現在の君の魔力と釣り合うようにしたんだよ♪ 簡単に言えば。 LEVEL4になったってことだね。 おめでとう♪」
「…………」
葉月は心の中で少し悩んだ。 葉の言うとおり、いま自分はLEVEL4になった(らしい)。
嬉しいと言えば、そりゃ嬉しい。 中等部一年の中でこの時期にLEVEL4になった人間なんて、まずいないだろうし、何よりも自分が成長したような気がして、本当に嬉しい。
だけど、一つ足りない。 一緒にこの嬉しさを共感できる人間がこの場にいないのだ。 本来、LEVELの増加は一定の期間をそって行われる。 具体的な日にち時候などは知らないが、LEVEL増加の基準は、その人間がその時までに、どれ位魔力が増加しているか。 または、そのLEVELに吊り合うほどの成績があるかないかで決まる(他にも色々あるらしいが、葉月は知らない)。
今回の葉月の場合、葉月が変な魔力の使い方をしたこともあるが、もともとの才能と斐川との決闘での経験地もあるうえ、成績に関しても申し分はない。 つまり、今回のことがなくても、葉月は近いうちにLEVEL4になっていたのだ。
だけど、LEVEL増加なんて、一年にあるかないかの事だ。 一緒に称え合える人間がいないのは、少し悲しい気がする。 ん? 校長? 数に入れると思うか? 一息つくと、葉月はベッドから降りる。
「ん? 帰るの?」
「……体の調子は良くなったんだ。 ここにいる必要はない。 そろそろ夕食の準備をしなくちゃいけないんでな」
そう言うと葉月はいまだに抱えている複雑な思いをすぐに消去して、壁にかけられた自分のロングコートを手にとる。 そこで
「…………え?」
今自分が手に取ったものが異様に軽い気付いた。
「……っ」
まさかと思い、自分らしくもなく慌ててロングコ−トの中身を探る。 ポケット、袖、裏ポケット、カフス、裾。 ロングコートのあらゆる場所を探してみるが、無い。 アレが無い!
不意に、葉月はクスッという、小さい、だけど大きな意味を持つ笑いを確かに聞いた。 葉月は笑った張本人を見る。 他にいる訳ない。 笑ったのは、見舞人用のパイプいすに座った白木葉。
「おまえ……っ」
「お探し物は…………」
葉の手に白く光る粒子が集まる。 それはほかの粒子を吸収するたびに大きくなり、ついに自分の顔程度まで大きくなると、一瞬だけ強い光を放ち、それは一冊の古びた携帯辞書に変わった。
「これかな?」
え〜と・・・・・・・・・ども、お久しぶりです。
次話の投稿にここまで遅れてしまったことに関しては、モチのロンに理由があります。
たった一言。 パソコンぶっ壊れたww
ええ、非常に単純です。 しかもバックアップすらとっていなかったという自分に乾杯(笑)
しかも、その少し後に定期試験というわけだから、マジたまらねぇw はぁ・・・・・・・
はい、愚痴はここまでです。
久しぶりの投稿ってことで、更なるレベルダウンをしていないか心配です。
しかもこれの後には第五へと移動するつもりだったのに急遽変更。 二話後ということになってしまいました。
情け無い自分に・・・・・・乾杯・・・・・・ww
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