第四:小さな鬼と書いて許婚と読む!! part4
それから二日後。
ソファに、まるで何処かの幽霊に精力を底まで吸い尽されたかのようにぐったりとしている葉月を、愛海は前から、美久は後ろから抱き付いて、二人でサンドイッチにしていた。
「だ〜め! 葉月は私のものなの!」
「そんなこと無いです! 葉月は私のものです!」
葉月は心を閉ざしていた。 前後から鳴り響く高音のステレオにも反応しないくらい完璧な管理システムを持つ心の核シェルターに身を潜めていた。
今は何も考えたくない。 顔と頭と体に感じる柔らかくて温かい感触に埋もれていても、なんにも感じていない。 愛海に抱きしめられているせいで呼吸が困難な状況だが、それに関しては忘れている。
全ての原因は美久のこと。 別に美久の体がどうしてこんなにも色気が無いんだろうとか、そういう問題ではない(そもそも中学一年生に色気を求めてもしょうがない)。
問題は、『何故か美久が我部屋で学園生活を過すことになったこと』だ。
(ありえない……)
昨日葉から電話がきて、いきなり「美久ちゃんを君の部屋に入れることにしたからね〜♪ ちなみにNOっていう返事は無しね♪」
自由な学園にも限度があるだろう。 男と女を一緒の部屋に、しかも女性の人口密度が高いなんて、普通じゃない。 もともと普通じゃないのは解っているのだが。
「葉月は私の弟なのよ!」
「その時点いろいろアウトじゃないですか! 葉月は私の許婚なんですよ!」
葉月的には美久も十分アウトだ。 見た目小学二、三年生の少女と見た目もきちんとした中学生の葉月とでいろいろ危ない気もする。 たった12歳でロリコンの疑いはかけられたくない。
「お前ら……いいかげんに……」
「うぇ〜ん、葉月〜! お姉さんがいじめてくるぅ〜!」
あまりにもの煩さに心の核シェルターは崩壊し、頭にもきてきたので、いい加減にしろと言いたかったのだが、後ろで抱きついている美久がぎゅ〜っ! と腕の力を強めてくる。
「うおおああああ!? やめろ美久! お前自分の腕力を自重しろ!!」
ミシミシッ! という本当に嫌な音を葉月の首の骨があげ、それと共に走るとんでもない激痛は、斐川の体術よりも恐ろしかった。 普通、女子高生でも腕力や握力で首を折ることは難しい。 折り方を知っていれば話は別だが。
しかし、この相馬美久にそんな理屈は通用しない。 彼女の腕力は尋常じゃないのだ。
彼女はその小柄でありながら、体重60キロ程度の大人なら平気で持ち上げるというとんでもない特異体質の持ち主であり、瓦を手刀ではなく、デコピンで粉砕する異質体質の持ち主だ。
原因は彼女の筋肉らしい。 モチロン見ての通り、美久の体はムッキムキなマッチョというわけではなく、むしろ触っただけで折れてしまいそうなほど繊細に見える。
しかし、見た目で人を判断してはいけない。 彼女の筋肉が以上なのは、『量』ではなく『質』だ。 彼女の筋肉は数十倍の密度と柔軟性のある筋肉繊維をもつらしい。 これによりとんでもない筋力を発揮するのだという。
昔、美久が葉月が一人で下校した時、いきなり後ろから抱きつかれた時の衝撃で脱臼したことがある。 今思い出してみても、美久との良い思い出はあまり無い。
「あぅ、ゴメンね葉月……」
素直に腕を葉月の首から放す。 助かったといって良いだろう。 いくら腕力が雷神トール並みに強いとは言え、精神は優しい素直な子供なのだ。
「はぁ……はぁ……気にしなくて良い……」
呼吸を整えながらそう返し、同時にまぁ、言いかと考える。 積極的に抱きついてくるところ。 異例で異質で異常な腕力を持っていることを抜かせば、本当に可愛い幼馴染なのだ。
それに、お互い中学生だ。 不純な恋愛などはありえないだろう。 まずこちらとしてはそんなこと望んでもいない。 一緒に済んでも問題は無い。
しかし、一つ疑問が残る。 現在日時は5月9日。 愛海がこの学園に来たのは。 少なくとも5月3日だ。 そして、この部屋に止まることになったのは昨日。 つまり5月8日だ。 さてここで問題。
『いったい美久はこの間の五日間。 どこで何をしていたのでしょうか?』
「……なぁ、美久……」
「? なになに?」
可愛らしく小首をかしげる美久。 こう見ると、本当に害は無いように見える。 妙に聞き辛い。 しかし、決心する。
「美久……お前、ここに来る前、どこで寝てた?」
「え…………?」
急に口ごもってしまう美久。 何があったお前に。
「何があったか、とりあえず『言え』。 そして愛海という名のボケ、早く『失せろ』」
「うみゅ! は、はい!」
「ちょっと! 私の扱いがおかしいってば!!」
騒ぐだけだったので愛海に対しては両手で突き飛ばす。 手に嫌な触感と、「ひゃんっ!」という愛海の一瞬の悲鳴も聞えたが、ここは無視します。
美久は葉月が命令口調になったのを恐れて、話す気になってくれたみたいだ。
「えっと……校長先生のお部屋になんだけど……あれ? 葉月……なんで魔力を全開に解放してるの?」
「ちょっとあの校長の面、思いっきり潰してくる」
「ま、まって葉月! ごめんね、言葉間違えた! 校長先生が用意してくれたお部屋に泊まっていたの!」
何故そう言わない。 本当に勘違いしてしまったではないか。
逆に言えば、あいつの面を殴る機会がなくなってしまって微妙に残念なのだが。 美久は自分の頭は小突いてえへへ♪ と笑った。 葉月は残念さと呆れでついに溜め息をついた。
「……まったく……っ!?」
突如、凄まじい吐き気と激痛が葉月の体を襲った。
「う……うぁ……あぁあああああ!?」
体の中をグチャグチャかき回されたような感じがする。
あまりにもの激痛に、自分の体が床に落ちたことすら理解できなかった。 愛海と美久が慌てて駆け寄ってきたのが見えたが、それが本当に彼女らなのか確認できる前に、葉月の意識は電源のように一瞬で断たれた。
名前:相馬美久
年齢:12(9月9日生まれ)
性別:女
学年:中等部一年
身長:131.1cm
体重:24.1kg
学年:中等部一年
魔法名:CHERISHER(慈しむ者)
性格:天真爛漫だが、すこし寂しがりで甘えん坊。
特徴:水色の長髪。 背が低く、小学低学年並みの体系であり、めちゃくちゃスレンダー。 シンプルな柄のワンピースをよく着ている。
備考:葉月とは幼馴染であり、親公認の許婚でもある美少女。恋愛に関しては妄想癖があるようで、時々暴走する。 国会議員の娘。
見た目のこともあり、周りから守られるタイプ。 そのせいか、彼女に近づく、または親しく接した人間は敵対視される。
しかし、彼女は常人の数十倍の密度と柔軟性のある筋繊維をもつ体を持ち、実際は常人の数十倍の力がある(自覚はしているが、よく忘れる)。
お久しぶりです!相変わらず更新の遅い望です! ネタは浮かんでいるのに、それを上手く文章に出来なくて結構悩んでいます(出来ても、上手くはありませんが)。 もっとぱっぱとできるようになれば一週間に一度のペースに出来るのに、それが出来ないオレは本物のバカ(決定事項)。
さて、今回はこの辺で。
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