第四:小さな鬼と書いて許婚と読む!! part3
放課後、葉月はまっすぐにある所へと向かうことにする。 そのある所には中学一年校舎から歩いて15分ほどで着いた。 着いたのは高校1年校舎。
モチロン、葉月は高校生なんかに用は無い。 あるのはあの馬鹿校長だけだ。 校長室は、なんとも面倒くさいことにこの高等部一年校舎にある。 ここは中学一年校舎とはかなり離れており、繁華街地区を通らなければならないので少々疲れる。
(それでもアイツに聞き出さないと……)
それだけ重大な件が現在はある。 とりあえず校舎の中に足を踏み入れ、近場にいた適当な女子生徒に校長室はどこかと聞いた(ちなみに、本当に適当に話しかけただけで、決して葉月は女子高生好きなわけではない)。
すると、なんともご親切なことに案内してくれた。 葉月と上級生は数分だけ歩くと、左右に開くタイプのドアを使用した一室に着いた。 ここが校長室か。
上級生に案内をしてくれたことに礼を言うと、上級生は「じゃーねー♪」と明るい態度で去っていった。
「さて……」
次の瞬間、葉月はノックもせずに、ドアを蹴りあけた。 しかし、ドアは思ったよりも軽く、簡単に開くどころか、開きすぎてドアが壁にぶつかった音がした。
中には驚いた表情をしたまま大きなイスに越し掛けている少年と、秘書であろうセミロングの茶色い髪をポニーテールにしたスーツ姿の女性が同じ表情をして立っていた。
しかし、気にせずそのままづかづかと中に入り、校長用の妙にでかい机に飛び乗り、少年。 否、この学園の校長、白木葉のパジャマの胸倉を掴んだ。
「ちょ! 篠原君、いきなり何!?」
「アンタ……なんで相馬美久をこの学園に入れた!!」
最初はうろたえる葉だったが、葉月のその一言で全て理解したようだ。 それを表すように、あぁ、と言って自分の手の平に拳を乗せる。
「相馬美久ちゃんのことね、知り合いなんでしょ? 良いじゃない、知り合いと一緒に学園生活を過す。 いいドラマが生まれると思うよ?」
「そんなのはどうでも良い。 何でこの学園に入れたかを聞いている。 転校生の入学枠なんて、この学園には無いんじゃないのか?」
「うん、ないよ」
「じゃあ、なんで!」
すると葉は、右手の親指の先と人差し指を先を合わせた。 まるで関西のほうのヤンキーが金を要求する時によくやるあの仕草みたいになった。
そして、
「お金♪」
文字通りな言葉を口にした。
「この、腐れ外道!!」
葉月は叫ぶと同時に右足だけを床に着け踏み込み、そのまま葉を出口のほうへ全力投球した。 思ったより重かったが、葉月にとっては全然問題ない。
しかし、葉月の手が葉の胸倉からはなれた瞬間。 葉はフワリと浮き、ゆっくりと床に着地した。 人間の技では出来ない。 これは魔法の一種だ。 何の系統かは解らないが。
警戒心を持たれたのか、葉月は秘書の女性に羽交い絞めにされた。
「あははは♪ ごめん、ごめん♪ 半分冗談♪」
「半分は金かよ……」
葉月は心底呆れた。 葉が「まぁね♪」と満面の笑顔で言ったが、それは無視する。
秘書は葉に「放してあげて」と言われると、素直に葉月を話した。 それと同時に葉月は、膝の力がガクッと抜けたのを感じると、そのまま跪いた。
「冗談じゃないぞ……」
「とりあえず……どうしたの?」
葉がしゃがみこんで葉月の顔を覗く。 どうやら葉は、葉月の事情のほうは知らなかったらしい。 まぁ、知っててやっていたら今頃一発殴っているところだ。
とりあえず葉月は立ち上がり、葉に話してみることにした。 斐川に話した時とほぼ同じ内容で。
すると葉は、再び妙にでかいイスに腰掛け、こう言った。
「それどこのアニメの話?」
葉月はこれほどデジャヴと言う物が実際に在るのかと感じたことはなった。 ガックリと首が項垂れる。
まぁ確かに、いきなり「許婚です!」なんて信じてもらえるような内容ではないが、連続となると少しきつい。
「ま、冗談はさておき」
「結局冗談かよ!」
心の激情と共にガバッと顔を上げる。 やっぱり一発殴ってやろうかと思ったが、葉の表情を見ると、そんな気持ちはすぐに冷めた。
葉の顔は表情だけニコニコしておきながらも、目元は笑っていなかったのだ。
「実はね、お金というのは本当だよ。 でも、決定したのは僕じゃない」
「じゃあ、誰だ?」
葉は「理事長だよ」と短く言って、彼は机の引き出しから大きめの封筒を取り出した。 葉月は黙ってそれを受け取って中身を見てみる。
中にはA1サイズの書類が一枚だけ入っていた。 取り出してみると、紙には殴り書きで、
「入学を認める」
そう書かれていた。 あまりにもの怒りに、葉月は書類を床に叩きつけて机をバン!と叩いた。
「どんだけ自由な学園だよ!」
同じ様に葉も机を叩く。
「知らないよ! 理事長に聞いてよ! こっちは忙しいんだ! ていうか諦めてよ!」
「嫌だよ! あいつがいたら僕の学園生活が不幸の一色に染まる!!」
「あぁ、そのほうが面白いかもね! 僕はそれをゆっくり見るとするよ!」
「あんたそれでも教師か!!」
「えぇ! これでも教師です!!」
「失礼します」
不意に、葉月と葉のくだらない口論を打ち切ったのは変声期過ぎた少し高めな少年の声だった。 葉月と葉は二人同時に出口のほうへ向く。
そこに立っていたのは、中性的な顔立ちをし、青い瞳を持った少年だった。 腰辺りまで伸ばした髪は雪よりも白く、肌も血の気を感じさせないくらい白かった。 彼が着たヴィンテージのジーンズやパーカーは、彼の持つ唯一の色に見えた。
「やぁ、戸塚君。 どうしたの?」
葉は陽気な笑顔で少年を歓迎した。 少年は「障壁解除の件についてなんですが……」と、その歓迎を面白いようには受け取っていない口調で葉と葉月のほうへ歩み寄る。 白髪の少年が机の前にたどり着くと同時に、葉月は反射的に数歩後退して身を引いた。
そして葉月は感じた。
コイツは化け物だと。
理由は簡単。 彼の魔力が全く感じられないのだ。 しかし、魔力が無ければこの学園に入ることは不可能。
ならば、こう考えられる。
『彼の魔力が無いと感じられないほど弱い』のではなく、『魔力を誰にも感じさせない位、魔力を押さえ込めるほどの魔力と操作能力を持っている』のだと。
基本、魔力と言うものはある程度のレベルならば、その大きさが|外(他人)にも伝わるのだ。 もっとも、それが嫌で、大抵の人間は制御して魔力を押さえ込むのだが、それでも魔力は外に伝わってしまう。
反射的に退いてしまったのは、おそらく恐怖によるものだった。 始めて光崎神無を目にしたときとは違う、本物の恐怖だった。
『こんなものが存在するのか』という驚愕ではなく、『なぜこんなものが存在しているのか』という本物の恐怖。 葉月はこの場を立ち去りたくなったが、足がそれを許さなかった。 まるで縫い付けられたかのように足が動こうとしない。
そんな葉月を見向きもしないで葉は笑顔のままでいる。
「あ、その件? 風紀委員会の方に回しちゃった♪」
「……吉良ですか?」
「っ!!?」
いきなり強力な魔力を感じ、葉月の体が痺れた。 感情に流されたせいで制御が中断され、戸塚の魔力が解放されたのだ。 凄まじい圧迫感が葉月を襲った。
しかし葉月とは反対に、なおもニコニコしている葉はどこか他のしそうだった。
「そだよん♪ 昨日の放課後に吉良君が来てね。 その件について話し合ったんだよ♪」
「……っ! 解りました……」
戸塚は苦虫をかみ殺したような顔をすると、「失礼しました」とだけ言って校長室をさっさと出て行った。
「…………」
葉はしばらくニコニコと戸塚が出ていった場所を眺めていたが、葉月はもう美久のことすら頭に入っていなかった。
見つめられたのだ。 戸塚に。
一瞬だけだったが、彼が校長室を出て聞くとき、間違いなく自分と目が合った。 なんてことも無いように思えるが、彼は自分から葉月を睨んだのだ。 明らかに敵意を持った目で。
しばらく呆然としていると、葉が「どうしたの?」と声を掛けてきた。
「いや……さっきの……」
「彼?」
いきなり嫌な笑顔を見せてくる。 明らか企んでいる様な顔だ。
「生徒副会長の戸塚雪奈くん。 更に言えば、怪物だよ。 僕が生み出した三つの怪物の一つ」
「怪物…………?」
怪訝な顔をして尋ねる。 怪物。 それはLEVEL6のことだろうか。 確かにそれらは怪物といえば怪物だ。
だが、三つとはなんだろうか。 LEVEL6とはいえ、たった三人ではない。 高校三年生なら10分の1はLEVEL6だ。 つまりそれではない。 だとしたら…………。
葉月の顔を見ながら、葉は楽しんでいる顔をしながら答えた。
「そう。 それが彼。 この学園に三人しかいないLEVEL7の一人」
「LEVEL7だと!?」
知らなかった。 まさか生徒でLEVEL7にたどり着けるものがいるなんて。
普通LEVEL7なんかに高校生のような発達しきっていない者がなったら、脳と精神が器に入れる魔力に耐え切れず崩壊してしまうというのに。
例えば、魔力という重石を入れたLEVELという器を、脳と精神という紐。 または鎖で支えるとする。 重石は器の大きさと同時に増え、それと同時に総重量も増量する。 そうすれば、いずれ双方の紐は千切れ、結果、『崩壊』する。
成長しきった大人なら、脳や精神も頑丈になり、崩壊の可能性は消えてくる。 逆に、高校生では無理だ。
「まぁ普通はそうだね」
人心朗読術しやがった。 だが葉は気にせずに続ける。
「そこで色々とやったんだ。 まぁ、僕が生み出した怪物達は、元々怪物並みの才能があったんだけどね」
「…………」
「そして、僕はこれからも怪物を作り続けようと思う。 そして、次の怪物は君だと思っているんだ」
「僕?」
「そう。 そしてもう一人。 五つめの怪物は―」
「光崎神無」
葉が言いかけたところで、葉月は思いつきでとある一人の少年の名を口にした。 葉はそれを驚かずに予想していたかのように笑みを深める。
「へぇ……何でそう思うの……?」
「いや、そう感じただけだ」
「そう……」
葉がいやらしい笑みを更に深める。 そのままの表情でいたら顔が崩壊しそうだ。
葉月はなんだか居心地悪くなった。 葉の笑いのこともあるが、学園内の怪物だの、自分もそのうちだのと、良い話ではない。 聞きたくなかった。 無言で踵を返し、校長室を出る。
「美久ちゃんのことは良いの〜?」
校長室を出た丁度にそんな明るい声が聞こえた。
最後まで嫌なやつだ。
宣言通り、ギリギリで次話を投稿できました!
久々に出てきたLEVEL7、戸塚雪奈の存在。 そして、彼のいう吉良とは誰なのか(とりあえず、もう書いてあるので、風紀委員会の人間であることは言っておきますね)。
ちなみに、今現在理事長とかの存在をどう置こうかを迷っています。 もしかしたら会話中の人物の可能性が……。
なんてことは置いといて。 今回はここまでです。 あ、そうだ! 名前少し変えました!(とある少年誌の主人公の名前を借りました)
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