第三:我は弱なり。 我は強なり part6
瞬間。 誰もが斐川の勝利を確信しただろう。 斐川本人もそう思った。
しかし、その誰もが抱いた確信と期待を打ち砕くようなものが、斐川の目の前に立っていた。 斐川の脚を両腕を頭上で交差して受け止めた篠原葉月が彼の前に立っていた。
葉月はそのまま斐川の脚を押しのけ、バランスを崩した斐川の体へ拳を叩き込んだ。 それだけで、たったそれだけのことで、彼の体は数メートル弾き飛んだ。
バン!!と重い音を立てて彼の体が床に着く。 それから呻き声を上げながら床を数メートル転がった。 苦しみに悶えながら吐き気を感じるようになる。
しかし、すぐに起き上がり、葉月へ突っ込む。 もちろん、バカ正直にまっすぐにただ突っ込むのではなく、魔術によって施されたその脚によるフットワークを生かしながら。
反対に、葉月は一歩も動かなかった。 そして、歌うように口を滑らかに動かす。
「我の理想を我に描け。 姿は雷神。 我に刃向かう全てのものを滅せ」
詠唱が歌い終わると、葉月の四肢に電気が発生した。 さらに、彼の背後には十個の雷球が浮かび、円を描くような陣形を取る。
正面から見ると、今の彼のその姿はまさに雷を操る神、『雷神』。
篠原葉月は命ずる。
「行け」
と。
瞬間。 葉月の背後に浮かんでいた雷球が一つ一つ様々が、前後左右上下様々な方向へ動き出した。
「? なんだ?」
突然現れた奇妙な物体に警戒心が生まれ、斐川は雷球一つ一つに気を配りながらやはり葉月を狙う。 雷球は動き出したものの彼は一歩も動いていない。
「よく解らないけど、今度こそぉ!!」
斐川は葉月の目の前へ、一瞬で接近した。 この距離なら避けられまいと思っての行動だ。 斐川が葉月のこめかみを狙って脚を繰り出そうと足を上げる。
(捉えた!)
そう思った瞬間だった。 バシィ!! という音と共に斐川と葉月の間に『雷』が落ちた。
「!」
いきなりの事に驚き、斐川は葉月から少しだけ距離をとる。 その隙に様々なところから斐川の回り目掛けて、雷撃が降り注ぐ。
「『操作系魔術』か! くそっ!」
雷球はまるでそれぞれが意思を持つかのように動き回り、斐川に鋭い雷撃の矢を放つ。 斐川は多方向から襲ってくるそれを超人的な瞬発力で避けていく。
しかし、前後左右上下様々な方向から出てくる雷撃は避けるのが精一杯で、葉月を狙うのは不可能に近くなった。
そして、
「!」
そして、彼の目の前には四肢に雷を纏い、左の拳を振りかぶった篠原葉月が姿を現していた。 斐川の全身に嫌に冷え切った汗が吹き出る。 それは、負けると思ってしまったから。
それと同時に斐川は篠原葉月が寂しそうに、小さく、そして速く口を動かして、自分に語っているのを見た。 そして、篠原葉月の拳は彼の体を捉え、斐川は例えようもないくらいの痛みと、電撃が全身に流れていくのを感じた。
全身の力が抜けて自分の体が床に倒れ、泥の中へ沈んで行くような感覚を感じる。 それと同時に少し考えた。 斐川は見たのだ。 今仁王立ちになって自分を見下ろしている篠原葉月が自分になんて言ったのかを。 その言葉に、少し笑ってしまった。
(『ゴメン』じゃねぇよ…………)
斐川はそこで意識が途絶えた。 この瞬間、葉月と斐川の勝負は終止符を打たれた。
天才VS努力、やっと終わりました。 初めてのバトル描写にはいったん別れを告げて、これからはいつもどおりの日常生活的な描写を書いていきますのでよろしくお願いします。しかしあれですね。毎回同じことを言っていますが、本当にバトルでの表現は難しいです。いろんな人の作品を見ながら色々参考にしておりますが、それでも自分的には上手くいきません。コツを知っている人がいたら是非教えて欲しいです。では、今日はこの辺で。
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