「第一部」インターミッションC
軍に許可を求めていた彼への直接インタビューにオーケーが出たことを知ったのは、五回目の取材映像をどう作ろうか迷っていた時のことだった。
「君の記事なんだけど、思いのほか軍の受けがいいらしくて、話をするのも楽だったよ。あと、その彼としても、皇国から狙われてる話も含めて家族に顔を見せたいとかで、インタビューはなんと軍の生放送中にやってくれだってさ。凄いよねえ」
その話を持ってきた先輩記者は、にこやかに笑いながらそう言った。
私は、信じられないという思いで一杯だった。
軍のマスコミ嫌いは、こんな末席にいる私でも肌で感じるほどに強いものがある。
とくに戦争中の今などは、軍に関係する人達への取材許可をもらうことすら一苦労という有様である。
そんな情勢の中で、彼と直接会って話をするために両親やら先輩記者やらいろいろお願いして回ったのは事実だが、蓋を開けてみればリアルタイムのインタビューどころか、生放送での取材許可。出来すぎである。
もちろん、軍にも何か思惑があるというのは、私にもわかる。
もともとNGだった直接取材を許すというのだ、思惑が無いと考えるほうが無理だ。
だが、私とて、どんな形であれ、この記者という仕事についた時からそういったものに対する覚悟はしている。それに、私のクラスメートだった男の子が徴兵されてどんな人間となったのか、それはちゃんと後世に残さなければならない話だと思っている。
星の数ほど繰り返された話であっても、それのもう一つとして加えないといけない話であると、そう思っている。
私は早速、生放送の希望日時と取材内容をまとめると、この件の管理者である先輩記者にお願いをして、軍に話を持っていってもらった。
許可は、その日のうちに下りた。
そこに大人の思惑が、などと思うのはもうやめた。
私は、彼に会って話をしたい。
あの、教室の机で物静かに小説を読んでいた彼が、虫も殺さないような柔らかい笑顔を浮かべていたあの彼が、どうなったのかを知りたい。
軍の検閲された映像などではなく、同じ時を生きている同じ歳の人間として、私は、知りたかった。
「あの子に会ったら、大好きだったスープを作って待っていると、そう伝えてください」
生放送の件を彼の両親に伝えたところ、彼の母親からそういう返事を受けた。
両親は知っているのだろうか、改造を受けた彼の姿を。
いや、知っているだろう。知らないはずがない。徴兵された学生達に施された改造の話は、秘密でもなんでもない話だからだ。
それを思うと、胸が締め付けられるような感覚を覚える。どうしてこんなことになってしまったのか、数年前まではとても平和な国であったはずなのに。
生放送は、強力な通信装置を持つ宇宙軍本部のスタジオで行われることとなった。
そこで使われるのは、費用がかかる超空間通信を利用した立体映像装置である。特別な会談や重要な作戦会議などで使われる装置らしく、それを使わせてもらえることに先輩記者がとても驚いていたのが印象的だった。
宇宙軍本部に入ると、場違いともいえる十七歳の記者に、好奇と、それ以上の敵意のようなものを感じた。
初めの頃はその視線に悩んだものだが、今はもう慣れてしまった。
生放送が始まる前に、自分の姿を確認する。
服装は、化粧は、髪型は、笑顔は、どれも彼と会うのにおかしいものはないか。
デート前におめかしするスクールガールだな、と私はぼんやりと思ったものだが、かといって変な姿を彼に見せるのは、なんというか、私自身が許せなかった。
「では十分後にオンエア開始します」
テレビで見慣れた軍広報の女性が、スタジオに入ってくる。
私も、指示された所定の位置につく。
そして、番組が始まった。