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[第一部]序章

本サイトでははじめての投降となります。

今時の流行からは離れてしまっていますが、楽しんでいただければ幸いです。


 私が再びその名前を目にしたのは、見習いライターからキャリアウーマン風新聞記者へと外見上レベルアップしてから、一年ほど経ったある日のことだった。

 ショウジ=クリスティ。

「そのリストから、取材するやつが決まったら教えてくれ。軍の情報局に連絡する」

 そう言って先輩記者は一枚の紙を私に手渡すと、タバコを吸うために外へと出ていった。

 それは、宇宙の最前線で戦う軍人と定期的に話をして、その内容を新聞の記事にするという、珍しくもないありふれた企画だった。

 もちろん、作戦に関するものや兵器性能といった、いわゆる軍事機密に属する話は全てダメで、取材の内容については基本的に軍情報局の検閲を受ける。

 正直、最初にこの話を聞いた時は、なんとも気乗りしない企画だと思ったものである。

 これが軍のパフォーマンスであることは言われずともわかったし、検閲を受ける以上、不本意な修正を指示されることもあるだろう。ひどい時は恫喝さえあるかもしれない。

 だが、これも仕事である。私が稼がなければ両親共々路頭に迷うことになるのだから、この程度の話など甘んじて受け入れないと。

 マスコミ各社と強いつながりを持っていた、私が住むグリーン連邦国の与党政権が軍事クーデターによって討ち果たされてしまったのはつい先日の話。

 主導したのは英雄として名高いフランクリン中将。与党政権が起こした度重なる戦争に疲弊していた国民は、民主主義をあっさりと捨て、中将を熱狂的に支持した。

 逆に、政権を強力に支援していたマスコミに対しては、民衆の支持は極端に冷え込んだ。

 マスコミ各社が自らを守るために、政権に協力的だった記者や識者達を解雇して放り出さなければならなかったといえば、その深刻さが伝わるだろうか。

 もっとも、その放り出された中には私の両親もいて、私としては何としても今の立場を守り抜いて、日々のお金を稼がないといけなくなったわけだが。

 なお、討ち果たされた政権が起こしてしまい、クーデターの原因ともなった二回目の戦争は、今も継続中である。

 なにしろ相手はかつての同盟国だったアムテス皇国で、裏切り同然で開戦してしまった以上、そう簡単に終わらせられないということだ。

 こればかりは、若輩の私でも、前政権がいかに愚かで救いようがない連中だったかを一晩かけて語りつくせる自信がある。あいつらを大人達が選ばなければ。

 おっと、思考が脇に逸れてしまった。話を戻さないと。

「ショウジ=クリスティ、十七歳。ニュータカオシティ出身、一年半前に徴兵」

 先輩記者から渡された、たった一枚の紙に書かれている情報が、その人物がかつて私の中学時代のクラスメートであったことを強烈に示していた。

 一年半前ということは、高校に入ってからほとんどすぐに徴兵されたということか。

 彼のことは私も覚えていた。

 やや背の低い、物静かな生徒であった。アジア系の血である黒い髪と、やや黄色めの肌をしており、成績はいたって普通。

 もっともそれ以上の印象は私には無く、クラスメートなのでもちろん顔見知りではあったが、別に特別な関係でも何でもない、その他大勢の一人。

 この紙で名前を見なければ、あと数年もすれば忘れていたかもしれない。

 そんな、すぐそこにいた同い年の少年が、戦争の最前線にいるという現実。

 驚きはしなかった。かつてのクラスメートで同様に徴兵を受けて戦争に行った人は何人もいる。すでに死んでしまった人もいる。

 そして今、取材対象として、彼の名前がそこにある。

 悪化する戦局を挽回すべく、悪名高い国家総動員令が、愛と平和とやらを旗印に掲げた前政権の手によって決定されたのは、二年ほど前の話。

 今なら言える、彼はその犠牲者である。

 望まぬ徴兵に従い、大人達が勝手に始めた戦争へ行かされてしまった一人である。

 ならば、同世代の一人として、記者として、私がすべきことは何か。

 彼と話をすること。

 そしてそれを記事にして、できるなら後世に残すこと。

 私は自分の席から立ち上がると、取材する人物が決まったことを告げるため、先輩のもとへと向かったのだった。

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