ライバル女子が持つ最強兵器「若さ」
「これでいい! これであと一ヶ月、ごはん作りから解放される」
宅配の夕食、一ヶ月分のセットを注文した後、リカは椅子の背もたれに上半身を預けて、背中を反らしていた。
ノリコは、その頃実家で過ごしていた。平日は仕事中心の生活を送り、週末はサトシの部屋で彼女として過ごす環境で、リカの大変さを分かった風な口は利けない。
恋愛も安定期になると、「一緒に居て気がラク」という理由だけで、二人の関係が成立する。最初の頃に感じていた「毎日でも会いたい!」というトキメキが消えていくのは、仕方がないことだった。
「来月から、新入社員の女の子と一緒に、外回りの仕事するんだ」
サトシの言葉にノリコは動揺した。
数ヶ月間、その女の子はサトシと一緒に取引先を回りながら、実際の業務を覚えていく主旨らしい。仕事とはいえ車内に二人きりというシチュエーションだ。サトシの地方への出張にも同行するという。ノリコは内心穏やかではなかった。自分よりはるかに若い二十三歳女の子なのだ。
サトシに愛されている実感はあっても、二人の間に「慣れ」や「マンネリ」が生じているのも事実だった。
その新入社員の女の子と一緒に仕事をするようになって、サトシは、スーツを二着新調した。お酒の量だけでなく、食事の量も減らしていることに、ノリコは気づいていた。
週末の土曜日、ノリコが作る料理の中でサトシが一番気に入っている「エリンギと牛肉の炒め物」を、二人前の分量で作り始める。
「そのエプロン、初めて見た、かわいいね」
サトシの言葉を背中で受け止めて、改めて振り返る。
「ホントに? 」
若い女の子の存在が、ノリコに、フリル付きのピンクの女子会エプロンを、買う気にさせたのだ。
出来上がった料理を、楕円形の白い皿に、ほぼ均等に盛りつけていく。
「ごめん、ノリコ、僕の分、軽めにして」
「まだ、お腹空いてないの? 」
「違うよ、ほら、最近太り気味って言ってたじゃん」
「そんなに太ったように見えないけど」
「これ見て!」
サトシは、わき腹に付いた贅肉を無理に引っ張って、その厚さをノリコに確認させる。
「たいしたことないじゃん、普通だよ、それくらい」
今までのサトシだったら、一人分の量では足りなくて、ノリコの皿にまで手を伸ばしていた。
元々太めの体型ではないのに、やたらお腹周りを気にし始めた。車に同乗している女子社員に、自分をよく見せたいというサトシの気持ちは見え見えだった。
出来るだけ平静を装って聞いてみよう、軽いノリで聞くのだ。
「ねえ、今一緒に仕事してる女の子って、そんなに可愛いの? 」
聞いてから、ノリコは少し後悔した、サトシは本当の事を言わないだろう。
「カワイイ女の子だよ、でもタイプじゃない」
「でも、可愛いんでしょう? 若いし……」
最後に付け加えた「若いし……」の部分をノリコは強調した。
この話題から離れないノリコの気持ちを読み取ったのか、サトシは立ち上がって、ノリコの隣に座り直す。
「もしかして、やきもち焼いてる? 」
「自分の彼が、毎日、若い女の子と一緒に車に乗ってるのよ、平気なわけないじゃない。サトシにその気がなくたって……」
「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃ……」
「わかってる、サトシが悪いわけじゃないの、私に話しても大丈夫だって信じてたから……でしょ? わかってるの、わかってたはずなのに……。なんか、すごく心配になっちゃって……」
「ごめん、不安にさせて」
ノリコの耳元でささやいた後、サトシは、耳たぶに軽くキスをした。
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最後まで読んでいただいてありがとうございました。
いや、正確に言うと、途中まで読んでいただいて、なんです。この続きが、ライトな「地の文地獄」になっていることに気づいて泣く泣く分けました。
後半は、明日投稿します。
今日の夜、9時頃に投稿予定の活動報告は、読者の方にご負担をかけました反省の意も込めて、私、月夫が担当する予定です。