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高田部長と疑似恋愛 (上)

「うーん、もうちょっとなんだけどなー」

エマ先生は、メジャーを片手に持ったまま、腕組みをしている。申し訳なさそうに下着姿のままで立っているノリコを見て

「違うの違うの、ノリコさんは本当に頑張ってくれてるの、このわき腹のお肉を何とかするのは私のお仕事」

「体重を、もう少し減らしたら取れますか? 」

ノリコの提案に、エマ先生は、とんでもない!という表情になる。

「ダメダメ、これ以上は痩せないで、プロのモデルさんとは違うんだから、細けりゃいいってもんじゃないのよ」


エマ先生のレッスンの数日後、ノリコは、自宅と会社の中間に位置するスポーツクラブに入会した。 夏ぐらいから、電車の中吊り広告で、お腹まわりなどの部分痩せダイエット特集と新規会員募集のキャンペーンを派手に宣伝していて、ずっと気になっていた。


そのスポーツクラブは、交通至便な駅ビル内にあるので、利用する年齢層も幅広い。初めて来た時は、入り口の傘立てに杖が並ぶ光景に違和感を覚えたが、ノリコが行く平日の夜でも、たくさんの年配の人達で賑わっていた。

スタジオのレッスンは、始まる十分前に列が出来る。インストラクターよりもウェアが派手なオバさん達が、自分の定位置を確保する為らしい。

ノリコが、一番苦手に感じたのは、スタジオに参加する全員が、同じエクササイズをする意味だった。運動というより、みんなで体を動かして、ストレス発散のように見えたからだ。


今日で、通い始めて五回目だ。土曜日で人が多い。スタジオ内は、いつも以上に混雑して、運動するというより、コンサートのライブ会場で、飛び跳ねるぐらいのスペースしかない。

当然、動きもスペースをあまり使わないジャンプ系のエクササイズばかりだ。続ければ痩せるかもしれないが、ノリコが目指している身体作りとは違う気がした。

体力的にも、無理を感じたノリコは、受付に行って、理由を話して退会の手続きをすることにした。

受付の女の子に退会したい旨を伝えたが、クラブ側も会員を逃すまいと引き留めにかかる。

「まだ、ご入会されて、日も浅いですし、スタジオだけでなく、色々なメニューをお試しになってから……」

「スタジオ以外のいろいろなメニュー? 」

ノリコがちょっと興味を示すと、女の子は身を乗り出した。

「お客様には、入会特典で、パーソナルトレーニングを半額で受けられるんですけれど、そちらで体力つけて、レッスンに参加できるようにするのはどうでしょう? 」

半額という言葉に弱い自分に、パーソナルという例のプレミアム感を上乗せされた。 女の子の勧めるパーソナルトレーニングが、マシンジムのストレッチスペースで行われているのは、ノリコも知っている。


「じゃあ、その半額で受けられるパーソナルトレーニングを一回分、お願いします」

ノリコのその言葉を待っていたように、受け付けの女の子は、後ろのキャビネットから、一冊のファイルを抜き出した。

トレーニングを担当するトレーナーの顔写真とプロフィールが印刷されたページを、ノリコに一枚一枚、ゆっくり見せながらめくってくれる。

「氣になるトレーナーがいたら、言ってくださいね」

ファイルの中身は、女性と男性、だいたい半々の割合だ。男性に限って選べと言われれば、ノリコは行ったことはないが、ホストクラブで誰かを指名するのと同じ気がした。

スタジオのプログラムについていけないと相談しに来ているのに、何だか妙な気分になってくる。もう一度最初から、パラパラとめくった時、高田部長に似ているトレーナーの写真が目に入った。


「この方で、お願いします」

ノリコは、ページを開いたまま逆向きにして、受け付けの女の子に差し出す。

「このトレーナー、とーっても人気ある方なんですよ。実は、私も受けてるんです! 」

「そ、そうなんですか? 」

まさか、会社にいるイケメン上司に似ているから選んだ、とは言えない。

「今日、いらしてますから、一時間後に予約入れますか? 」

一時間後は、急だったが、この為だけに、ここに来るのは面倒だ。ノリコは了承して、金額を支払った。


**********


最後まで読んでいただきましてありがとうございました。今日の夜、9時前後の活動報告で、作品の楽屋話と第30話の投稿予定日時をお知らせします。よろしかったらそちらもご覧くださいませ。


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