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センターバックで、コンタクト (下)

タカさんは、ノリコのヘアスタイルの写真を撮ってくれた。

「今度、美容室に行く時に、この写真を持っていくといいかも。本当に、彼をヘアメイクアーティストにしたいわ」

「えっ、美容師の方じゃないんですか? 」

ノリコは心底驚いた。

「まあ、あの雰囲気からそういうふうに見えちゃうんだけれど、彼は、地元では有名な製紙工場の息子さん、いわゆるボンボンよ。

美容師免許は持っていて、アルバイトでヴィレッジメンバーのサロンで働いてるみたいよ。週2日しか行かないのに、固定客がたくさんいるっていう噂なの。まあ、あのルックスだから、無理ないけれど。

でもねー、私と同い年なのよ。もう、嫌になっちゃう」

「そ、そんな、タカさんも素敵です」

そうは言ってみたものの、ノリコは、タカさんの年齢を知らない。

「いいわよ、無理しなくて。私の場合は、趣味でやってた踊りの振り付けの方が、みんなに知られてるけど、昔はサラリーマンだったのよ。ついでに言わせて貰えば、 元々は、ビジネスの方のメンバーだったんだから」

ノリコは、スーツを着て満員電車に乗っているタカさんを想像した。目の前にいる華やかなタカさんの姿と重ならない。


ノリコは、自分をこんなに素敵にしてくれた遼ちゃんと呼ばれている男性に、恩返ししたくても何も出来ない。 「少しですけれど、お礼の気持ちです」と言って、差し出したものも受け取らなかった。

人気者の彼の周りを、あっという間に、女の子達が取り囲む光景を、遠目に眺めるだけだ。

ノリコのしょんぼりした表情を見たエマ先生が、声をかける。

「どうしたの? 」

「みんな、すごいなって、自分は何もお返し出来ないです」

「そんな落ち込む必要ないわよ。直接じゃなくても、いつか何処かで、彼に恩返し出来る機会はあるわ」

「いつか何処かで? 」

「何かお世話になって、自分で直接、感謝できれば一番いいけれど、全ての場合に出来るとは限らないの。自分の目で見れないから、そういう気持ちになっちゃうんだと思うけど……。

ノリコさんが誰かのお役に立てた時、それがいつの日か、ノリコさんが知らない人や物を介した幾つかの段階を経て、彼に届く可能性は充分あると思うわ」

エマ先生の側で、タカさんは黙ってうなづいている。


父と井の頭公園で話した幸せの捉え方を肯定出来ないノリコだったが、エマ先生の感謝の意を表す考え方も、今のノリコには、非現実的な方法論にしか思えなかった。

「ありがとう」という言葉が伝える意味を、そこまで深く考える出来事が、この二人の過去にあったからなのだろうか。


エマ先生は、ノリコの沈んだ気持ちを引き上げるように、話題を変える。

「ノリコさん、今回、タカさんに気に入られたのも本当に珍しいことなのよ」

タカさんは、エマ先生の言葉に、その話はやめてくれと言う表情になる。

「そうなんですか? 」

ノリコがその話題に興味を示した途端、

「ちょっと待って、この話やめやめ! エマちゃん、悪い子なんだから……」

タカさんは、エマ先生が黙らないと読んだのか、

「今日、踊りに行くでしょ? 」

と、みんなに聞こえるように声を張り上げて、その場を離れようとする。

エマ先生が、最初に「イエーイ! 」と軽く拳を上げる。

パーティーがお開きになった後に、そういう展開になるとは思ってもみなかった。

「踊りにって、クラブに行くんですか? 」

ノリコの問いかけに、エマ先生は、リズムを刻むように腰をくねらせて答える。

「2時に、待ち合わせだから、もう少し待ってね。タカさんの友達がDJで回してるのよ、パソコンじゃないパフォーマンスだから、派手でカッコ良いの! 是非見てみて!」


ノリコは、深夜二時に待ち合わせしたことはない。あまりの時間帯のズレに驚いた。

タカさんが、戻ってこないのを確かめて、エマ先生はさっきの話の続きを始めた。

「タカさん、ノリコさんのこと好きなのよ」

「え、だって、その、女性には興味ないんじゃ……」

「うん、まあ、その意味の好きじゃないけど、かなりのお気に入りになってるのは確かよ。

私からお願いした人のほとんどが、タカさんに断られてるの。今回は、タカさんの方から、何か役に立てるならって申し出てくれたの! これ、本当に珍しいことなのよ」

「どうしてなんですか? 」

「わからないわ。でも、ほら、最初にスタジオに来た日、私の母が居たでしょ? 母も言ってたの、今回、タカさんが引き受けるんじゃないかって……」

「エマ先生、私、みんなと違って自慢できるものは何もないです! 」

「また、その話?

ビジネスの方のヴィレッジメンバーが、二人も推薦してきたのよ! 勿論、二人だから、タカさんが引き受けたわけじゃないけれど……」

ノリコは、ワイングラスを洗う手を止めた。

二人? 一人はリカだ。もう一人は誰だったのだろう。

「エマ先生、リカ以外の、もう一人のメンバーの方って、誰だったんですか? 」

後ろにいるはずのエマ先生の姿は、いつの間にか消えていた。


**********


最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

今日の夜、9時前後の活動報告で、作品の楽屋話と第29話の投稿予定日時を

お知らせします。











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