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ピンチがチャンスに変わる時

誕生日を、一人で過ごすのが寂しくないといえば嘘になる。片想いから始まる恋愛を、段階的に楽しむには、心が年を取りすぎていた。

今まで、誰ともお付き合いが無かったわけじゃない。大学時代を含め、かなりの数の合コンに参加していたし、会社に入ってからも、社内の人達と出かける機会は多かった。

恋愛に消極的になったのは、三十代前半に終わった失恋の後遺症が原因だ。

半同棲で五年間付き合ったサトシに振られた。

サトシは、リカの大学時代の研究室の先輩で、彼女の結婚式の二次会で知り合った。


リカの結婚式当日は、十二月に入ったばかりだというのに、雪を感じさせる寒い朝で始まった。披露宴用のノースリーブのドレスを家から着ていくのを諦めて、ホテルの更衣室を利用したのを憶えている。


ノリコは二次会の幹事の一人だった。

披露宴の後、一足先に、会場で使用するお店に到着したノリコは、扉を開けた途端、驚きで声も出ない。事前にリカから聞いていたレイアウトとは違う配置で、全てのテーブルと椅子が用意されていた。

頭の中が真っ白になったノリコの後ろ姿を見つけた男性が、サトシだった。

「え、え、こんなんでしたっけ?」

二人は打ち合わせの時に一度会っていた。

ノリコはバックの中からケータイを取り出して開く。それを見たサトシは両手の平で空気を押さえつける動作を数回した。

「新郎新婦に連絡するのは、代わりの案を考えてからにしませんか? さすがのリカさんでも、今聞いたら、動揺して考えられないでしょう」

「あ、そ、そうですよね」

冷静な判断をするこの男性に、自分の頭の中を見透かされたようで、言葉も繋がらない。

「といっても、自分、何も思いつかないんですけど」

くるくるしたくせ毛の後頭部に手をあてて、部屋を見回している。


「今から、私たちだけで席次表を作り直すのは、ちょっと無理だと思います」

ノリコの言葉にサトシは大きくうなづいた後、本音を漏らした。

「この部屋の雰囲気が、女の子っぽくて甘ったるいから、丸テーブルじゃなくて長テーブルだと、自分的にはとっても違和感あるんですよ。合コンとか婚活パーティーみたいに思えちゃって……」

サトシが最後につぶやくように言った言葉にノリコは反応した。

「その案でやらせてください」

長テーブルに沿って窓の方に歩き始めた、長身の後ろ姿を振り向かせる力強い声が、会場に響いた。まるで上司に報告するようなノリコの口調に、二人同時に笑いが起こる。


ノリコは思いついた案を身振り手振りで話し始めた。

「ゲスト全員を男女に分けて、くじ引きを引いて貰って……」

サトシは、腕組みをしたまま、うなづいていた。賛成なのか、とりあえず聞いてみる、なのかはわからない。至近距離で見るこの男性の一重まぶたから伸びるまつげが、自分のより長い。

「あの、男目線で悪いんだけれど……」

「男目線?」

「くじを引いてその番号の席に座る時、新婦側の余興で使うサンタガールの衣装で、男性陣を席まで連れてってくれたらって、ダメかな……」

「本気で言ってます?」

「不謹慎過ぎますか?」

ノリコが黙ったのは、女の子のゲストは、一人で歩いて着席するという違和感だ。

「女の子たちは?」

「女性には、僕らが、余興用に用意したサッカーのユニフォームを着て、ピッチに入場する時みたいに女の子達を席まで送る、とか」

「いいかもしれないです。二次会から参加の方が少ないし」

ちょっとおふざけっぽいが、リカなら大丈夫だろう。


スーツの内ポケットからケータイを取り出して、サトシは新郎に電話をかけた。

「もしもし、スズキですが……」

ノリコは、自分の名字を名乗っていることに驚く。リカが「サトシ先輩」と呼んでいたから、名字を知る機会がなかったのだ。


くじ引きの為に、ゲストを多少待たせてしまったものの、サンタガールとサッカー選手のエスコートによる合コンっぽい席の並び方は、予想以上に好評だった。


このハプニングを乗り越えた幹事六人に、ちょっとした連体感が芽生えていた。六人だけで行った三次会のお店で、「今度また飲みにいきましょうよ!」という誰かの一言に、全員がうなづく。


帰りの電車が、ノリコとサトシは同じ方面だった。つり革につかまったサトシの斜め上からの視線を、強く感じていた。

サトシが正面を向いたのを、夜の暗い窓ガラスの映り込みで確認したら、今度はノリコが細くて高い鼻の傾斜を見つめる番だ。次の駅でサトシは降りる。名残惜しい気持ちが、表情に表れるのを必死で抑えた。

「あの……」

二人が同時に話そうとして、慌ててお互いが「お先にどうぞ」の手の動作で譲り合う。

「飲み会の話、連絡します」

そう言ってサトシは、降りる人達の流れに紛れた。

ノリコが、一瞬下を向いて、再び顔を上げた視線の先に、サトシの姿が再び現れる。ホームで自分を最後まで見送ってくれるこの男性を、好きになっていけない理由が見つからないように祈っていた。


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最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

昨日同様、今日の夜9時前後に、今日の登場人物の誰かが、今日のお話の楽屋話と、次話の投稿予定日時をお知らせする活動報告を投稿する予定です。

よろしかったらそちらもご覧ください。































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