表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

嵐前の静けさのような

 のんびりとした口調で、彼が私を呼ぶ。

 それが普通になったのは、出会ってからほんの数週間経った頃だった。


「ひよちゃん、お昼行こ」

「また来たんですか?」

「ひよちゃんの好きなお菓子、持ってきたから。ね?」


 一体どこでそんな情報を手に入れてきたのだろう。

 当たったり当たらなかったりするものの、毎日のように新しい情報を持ってくる。

 まさか後をつけられているんじゃないか。

 そんな風に疑うこともしばしばだった。


 *


 昼休みと放課後の二回、彼に会うのが日課になりつつある。

 今日の昼休みもそうだった。

 教室に迎えにきた彼に続き、いつもの場所に向かう……はずだった。


「あれ、今日は中庭行かないんですか?」

「行くよ。ちょっと買いそびれたものがあるから、購買行くね」


 そう言って彼は購買に一番近い階段を目指す。

 その階段に差し掛かった時、今まで黙ったままだった彼が口を開いた。


「あのさ」

「何ですか?」

「……ひよちゃん、俺のにならない?」


 小さく呟かれた言葉。

 空耳にも聞こえたそれに、私は首を傾げてもう一度言ってもらうように促す。

 でも、彼は。


「何も言ってないよ。……明日、ちょっと用事があって会えないんだ」

「そう、なんですか」

「寂しいって思ってくれると嬉しいな」


 誤魔化されたんだと思う。

 空耳のようだったけれど、私はもう彼の声を聞き落とすことなんてできなくなっている。

 だから、きっとあの言葉は本物。

 でも、どうしてだかそれ以上追求してはいけない気がして。

 そうしなかったことを後悔することになるなんて、この時の私は一ミリ足りとも思ってなかった。

 

 *


 次の日、予告通り彼は現れなかった。

 それどころか。

 その次の日もずっと、会いに来てくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ