作戦染みた本音の奥
綺麗事を言っちゃって。
「昨日のことは気にしてないから。それはもう全く」
例の友人を連れ立って、何を言っているのだろう。
昨日よりも数時間早い昼休みに彼は私の前に現れた。
めちゃくちゃ気にしてますって表情を浮かべて。
隣に立つ友人の顔も苦笑に満ちている。
そして、かなり鬱陶しそう。
「ひよちゃんのストレス発散だよね。大丈夫、俺、耐えられる」
「……あんな青痣作っといて、よく言えるな」
「そ、それは言わない約束だっただろ!」
やっぱり、と言うか何と言うか。
担任の話を聞いて、ほんの少し冷静になったらしい。
彼の声がいつも少し震えていることに気づいた。
「で、私のサンドバッグになりにきたんですか?」
「ぶはっ。言うねぇ、春日井ちゃんって」
おそらくこの人が噂の宇都木先輩なのだろう。
視界の隅に映るクラスメイトが興奮したように彼を指差している。
同時に私に向けられる視線は、昨日彼が来たときよりも痛い。
「それで、ひよちゃんの隣にいることを許してくれる、のなら」
周囲の喧騒に紛れて、聞き落としそうだった。
たぶん、普段なら聞き落としていたほどの声だった。
さっきから、この人は何を言っているのだろう。
これは何かの作戦なのだろうか。
そうだったら……嵌りたくない。
「許しませんよ」
「え。……な、何が?」
さっきの言葉は聞こえていないと思っていたらしい。
私の言葉に、相当焦りを見せているのがわかる。
この人、バカだ。
「お腹空いたんですが。もちろん、奢ってくれるんですよね」
そして、彼を突き放せないと思った私は、もっとバカだ。